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その執事、策動





「ではこれより寮対抗クリケット大会第1回戦。紺碧の梟寮対深紅の狐寮、開始します!」



選手たちが中央で一列に対峙する。



「いきなり赤寮にあたるとは残念だったなロレンス」

「フン」

「チェスは負けるがクリケットでは負けん!」

「それはどうかな」



それぞれが闘志をぶつけ合う中、主審がコイントスをした。



「先攻は赤寮!青寮はベストに着替えるように。今大会は1試合2回20オーバー制とする!」

「はい!」

「プレイ!」



大歓声に包まれて幕はあがった。



「ソーマ・アスマン・カダール。右利きだ」

「いつでも来い」

「いきなり象王子とP4の対決か!」

「寮長いけーっ!!」

「青寮!」

「青寮!」

「いくぞ!」



ソーマは気合十分な掛け声と共にボールを振り上げた。

ーーーービュッ.



「(速い!!!)」



ーーーーバカァンッ.



「アウトッ」

「いきなりボウルドかよ」

「やっぱ運動はダメか〜」



バットを振ったブルーアーだったが、ソーマのあまりの速球には擦りもしなかった。



「くっ…」



応援席からは落胆の声が上がる。



「(あいつクリケットが得意というのは本当らしいな)」



思わず見直してしまう程だった。



「いくぞーっ」

「来いカダール!」



次の打者はクレイトンだ。



「はっ」

「あっ!?」

「上がったぞ!」



ガコッと音を立ててバットに当たったボールは空へと飛ぶ。



「くっ、打たされた」



悔しそうに眉間にシワを作るクレイトン。落下していったボールはレドモンドがキャッチした。



「ナイスフライv」

「コート!!」

「ツーアウト!」

「レドモンド様〜v」

「ステキ〜ッ」

「くそっ…!!」



今度は落胆の声ではなくレドモンドにより黄色い声があちこちからあがった。



「さあ、どんどん、いくぞ!!」

「ヒッ」



豪速球に腰の引けた打者だったが、ボールはバットに偶然にも当たった。



「ラッキー、落ちた!」



さらにその飛んだボールは守備が取り損ねた。



「走れ(イエス)!走れ!」

「あわわわわわっ」



声をかけられ慌てて走り出すも、間に合わずランアウト。



「あっちゃ〜」



試合観戦をしていたバルドは諦めたような声を出す。



「こりゃダメだな…」

「ねえねえ!なんで青寮の人すぐ帰っちゃうの?」



フィニがバルドに問いかける。ちなみにスネークはお留守番だ。



「バッターの後ろに立ってる三本の棒(ウィケット)が倒されるとボウルドっつって即アウトなんだよ」



ブルーアーの時がそうだ。



「打ったボールをノーバウンドで取られてもアウト。クリースから出てる時にウィケットを倒されてもアウトだ」



クリースとは野球でいうバッターボックスだ。バルドの説明を受けたメイリンとフィニは口元を引きつらせた。



「じゃあ今の全部ダメだったんだ…」

「青寮どんだけもやしっ子集団なんですだ…」

「ひどいよメイドさん!!」



容赦ないメイリンからの言葉に何気に一緒にいたマクミランは涙する。



「そうよっ、あたし達ががんばって盛り上げなきゃ!シエル〜ッ、がんばって〜〜〜〜っ!!」

「坊ちゃんまだ出てやせんぜ」



なのにもうシエルの応援をするエリザベス。



「言われてみればなんで青寮の選手は二人しかいねえだ?」

「せっかく坊ちゃん応援しに来たのにね〜」

「もしかしてオメーらルールまったく知らねーのか?」

「「エヘヘ…」」



肯定としかとれない苦笑いを二人は返した。



「クリケットってのは11人対11人でやる野球の元になったゲームだ」



野球はマイナーではあるが、バルドの国では野球の方が人気のようだ。そしてクリケットのルールとしては、一番の特徴は三本の棒で作られた「ウィケット」、そして打者が二人いること。

クリケットはウィケットの攻防戦。打者はウィケットを守りながら打ち、投手はウィケットを倒すために攻める。点を取る方法はボールを打った間に二人の打者がそれぞれ反対側のクリースに到着すれば1点。また打球がバウンダリーラインをバウンドして越えれば4点。ノーバウンドで越えれば6点入る。これはいわゆるホームランだ。

投手は6球投げるごとに交代する。これを「1オーバー」という。一方、打者はアウトを取られない限り打ち続けることができる。1回=10アウトで攻守交代。野球と違い1回が長く、伝統的な2回表裏の1試合で約5日間かかる。



「「長っ!!」」

「やっぱそうか?だから今日はアウト数だけじゃなく投球数で攻守交代する独自ルールみたいだな。1試合2回、1回10オーバー(60球)で交代の20オーバー制だから、今日中に決勝まで終わる」

「クリケットは試合時間が長いから、2時間おきにティータイムがあるんだよ」

「優雅ですだ〜」

「オレもファントムハイヴ家料理長として特製ミートパイを作ってきたぜィ!ホレッ」

「ヒ…ヒイッ!!」



思わず引きつった悲鳴が出た。パイらしき生地は何と無く分かるが、とても人の食べ物には見えない未知のミートパイが用意されていた。食べたら無事に生還できるか危ういオーラがある。というかきっと無理だ。



「こっ…これは…」

「もしこんなのエリザベス様が召し上がったら…」



新聞にはファントムハイヴ家がミッドフォード侯爵令嬢毒殺なんて記事が載るだろう。顔を青ざめ震える二人に気づかずバルドは満足げだ。



「やれやれ。何をやってるんですかねあの方達は…」



遠目に眺めていたセバスチャンは呆れて溜息を。見向きもしないダリアはオペラグラスで試合を観戦中。



「10オーバー」

「おっと、もう攻守交代ですか…」

『ええ。それにしても、たった21点なんてね』



青寮の得点は21点で一回目の攻撃を終えた。次は守備にまわる番だ。



「取れクレイトン!」

「了解ッ!!」



気合だけは充分だった。



「おびゃッ」

「クレイトォォン!」



取り損ねたボールがクレイトンの顔に直撃。どっと湧き上がる笑い声。



「さっすがガリ勉寮」

「ありゃダメだ!」

「クソッ」



キャッチしたボールをシエルが投げるもアウトにはならなかった。



「俺の番か」



緩く結っていた髪を気合十分に高く結い上げる。



「いつでもいいぞ」

「来たな…レドモンド!」



女性陣の甲高い悲鳴を一身に受けつつレドモンドが登場。



「気を引き締めろコワード!」

「ハイッ」



青寮の投手が投球する。今までのボールの速度とは比べ物にならない速度だった。



「お…遅っ!?」

「なんだあのヒョロいボール」

「かっとばせ寮長!!」

「(いや、これは作戦だ)」



レドモンドの考える通りだ。

ーーーー速球選手は打ちづらいが当たれば反発が大きいため長打になりやすい。遅い球はその逆ーーーー反発が小さいため、これは長打を避けるためのあえてのスローボール。



「(だが!)」

「み…見ろ、あの構えは!?」



生徒達が目を見張る。



「(俺に球速は関係ない!!)」



ーーーー紅薔薇竜巻(クリムゾン・トルネード)!!

高速回転をして打ち上げたボールは速度をあげて遠くまで飛んだ。もちろんそれを青寮が取れるはずもなく、地面へとボールは落下。



「うおおおおおお!!バウンダリー6だ〜!!」

「いいぞ赤寮」

「まるで踊っているよう〜v」

「さすがだ甥っ子よ〜!!」



いたのか。



「ターンによる遠心力で長打力を上げたスログショット。しかしあの回転の中でミートポイントを外さないとは…やりますね」

『貴方ってオールジャンルに精通してるわよね』



関心するセバスチャンに見向きせずダリアが呟く。ちなみにスログショットとはバットを振り抜いてボールを強打する打法だ。



「さあ、どこからでもかかって来い。舞踏会(ゲーム)は始まったばかりだぞ」

「くっ…深く守れ!!」

「了解!」



もはやスポーツ漫画だ。





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