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オールを手にしたセバスチャンが上がり込もうとしていたソイツらを払い落とす。



『きゃあ…ッ』



ダリアの腕を掴んだソレは蹴り飛ばすが、それだけでは数なんて変わらないも同然。



「ど…どれだけいるんだ!?」

「分かりません…ただ、おそらく彼らはその身体が朽ち果てるまで、ただ魂を追い求める…」



水中からまだまだソイツらは増えていき、ボートに群がる。



「このあたりで生きている人間は、坊ちゃんとお嬢様だけ…という事でしょう」

『…なら…逃げられないわね…』



眉を寄せて言ったダリアに「ああ」とシエルが頷く。



「僕らが逃げればリジー達が狙われる。生存者を危険に晒すわけにはいかない…っ」

「幸いといいますか不幸といいますか、一番間近な魂にしか目が行かないようですからね!」



話しながらも手は休めないセバスチャン。



『ここで食い止めるわよ』

「やれるなセバスチャン」

「使用人に問いかけなど不要です。どうぞご命令を」



セバスチャンが言えば、シエルとダリアは頷きあった。



『セバスチャン』

「命令だ」



ピッとシエルは眼帯を、ダリアはチョーカーを外した。



「『掃討しろ!!』」

「御意、ご主人様!!」



力強くセバスチャンが答えれば、ソイツらは一斉にボートに飛びかかった。



「少々揺れますよ!ボートに掴まって!!」



我先にとボートに群がってくるソイツらをセバスチャンは次々にオール一本で蹴散らしていく。



「面白い…」



呟いたセバスチャンは愉快そうに笑みを浮かべた。



「人間は死して尚他者を蹴落とし、欲しい物を手にしようとするのですね」



ーーーー本当に強欲な生き物だ!!

夜の海にいつまでも続いていたうなり声のような雄叫びは、空が明るくなってきた頃にぴたりと止んだ。血の色に染まった海の一角の真ん中に浮かぶボートには、返り血に汚れたセバスチャンが息を乱して立っていた。静かになった事にボートにしがみついていたシエルとダリアは顔を上げた。



「終わった…のか?」



ーーーーガランッ.



「『セバスチャン!』」



オールを手放しひざを突いたセバスチャンは辛そうに眉根を寄せていた。



「さすがの私も…デスサイズでの一撃は応えました…」



葬儀屋に貫かれた傷口からはまだ血が溢れていた。



「葬儀屋…あいつの目的は一体…」

「私には分かりかねますが…その遺髪入れを坊ちゃんがお持ちの限り、またいずれ会う事になるでしょう」

『また…か…』

「坊ちゃんやお嬢様に危害を加える様子はありませんでしたが、私としてはもうお目に掛かりたくありませんね」



ハァーーーー…と息を吐いたセバスチャンが苦しそうに咳き込んで、二人は複雑そうな顔をした。



「お前がそんな風になるところは初めて見た」

「申し訳ありません、この様なお見苦しい姿を…ファントムハイヴ家執事失格です」

「『……』」



ボォーーーー…



『…救助船だわ』



遠くから大きな船がこちらに向かってきていた。同じ方向から、風がダリア達を通り抜けていった。



「……セバスチャン」



口元を拭っていたセバスチャンはん?と顔を向ける。



「ファントムハイヴ家執事がいつまでもそんな様子でいられたら困る」

『休暇をやるから、屋敷に戻ったらよく休むことね』



前を向いたまま、シエルとダリアは同時に言った。



「『今日はよくやった』」



二人からの労いの言葉に、呆然とセバスチャンは目を丸くした。



「坊ちゃん…お嬢様…」



だがすぐに、どこか困ったように笑った。



「おやめ下さい。貴方がたがそんな事を仰るなんて…」



振り向いたシエルとダリアにセバスチャンは言う。



「この後、嵐なんてごめんです」



悪魔も疲れ果てるほどだった時間の終わりを告げるかのように、海面から姿を現した朝日が三人を照らしていた。





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