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その執事、敢闘





「ふ…船が折れたァ」



葬儀屋のデスサイズにより船は真っ二つに。救命ボートで避難していた者達は、あまりの光景に顔を青ざめていた。その時真っ二つに折れて先に沈んでいく後方から何かが飛び出てきた。



「船首側ももう持ちそうにありませんね!」



シエルとダリアを抱えたセバスチャンは人や物が落下する急な角度をものともせず駆け上がっていく。降ってくる人や物を避けてセバスチャンは浮き輪と救命防具をキャッチ。



「坊ちゃん、お嬢様」



ずぼっ。とシエルに上からセバスチャンは浮き輪をかぶせた。



「お二人とも、大きく息を吸って!」



言いながらセバスチャンはダリアに救命防具を着せる。



「『えっ、なっ』」



もちろん二人はなんだなんだと戸惑うが、セバスチャンは説明なんか省いて二人を掴んで持ち上げた。その出で立ちは、誰がどう見ても投げるんじゃね?という格好。



「事態が事態ですのでお許し下さい!」

『ちょッ、まさか…!?』

「何す……ッ」



次の瞬間、二人の悲鳴が水の音に紛れて響いた。その数秒後、船は渦に呑まれて姿を消したのだった。そして更にその数十秒後…水面に土左衛門のいい例になる格好でグレルが浮かび上がってきた。



「回収すらキチンと出来ないとは…」



「まったく」とグレルをデスサイズでつまみ上げたのは小舟に立つウィリアムだった。



「謹慎中に怠け過ぎていたのではありませんか?管理課なのに動員されるこちらの身にもなって頂きたい。今日も定時で上がれないじゃないですか…まったく」



ブツブツ言いながら先に回収していたロナルドの上に無造作にグレルを転がすと…。



「起きなさい!グレル・サトクリフ!ロナルド・ノックス!」



ロナルドをデスサイズで突き刺す勢いで叩き、グレルを足蹴にしていた。



「イッテエ…ってウィル〜∨」



目を覚ましたグレルはウィリアムの姿を見るとコロッと態度を変えた。



「迎えに来てくれたのネ!!」



抱きつこうとしたグレルにサッとウィリアムは避けて、ガッとグレルは船の縁で躓き、ドボッと海に落下。



「迎えではありません。自分の仕事もこなせないクズ派遣員の尻ぬぐいです」



海に浮かぶグレルの頭にデスサイズをぐりぐり押し付ける。



「さっさと回収作業はじめますよ」

「ちょ…っ俺らボロボロなんスけど…」

「どんな時であろうと魂は確実に正確に回収するのが死神の務めです」

「この海より冷たい人権を無視したその眼差しッ。逆にアタシの体が火照っちゃう!」

「先輩元気ッスね〜〜〜〜オレムリッスわー」



最悪そうなロナルドと対照的に幸せそうなグレル。



「回収を終えたらすぐ本部に戻って、報告書を出してもらいますよ」



ワカメを頭にのせたまま上がろうとしていたグレルは、クイッとメガネをあげたウィリアムを見た。



「違反者についての報告書をね」



その頃、船が沈んだ地点から少し離れた場所では、海に投げ出された生存者の悲鳴や怒鳴り声なんかが響いていた。



「う……」



その場所からまた少し離れたところには、浮き輪に捕まったシエルの姿が。



「(痛い。氷で身体中刺されてるみたいだ)」



あまりに冷たすぎる水温にシエルの身体は小刻みに歯が鳴るほど震えていた。



「(手足が…動かな…)」



ゴポン…と、浮き輪から手を放したシエルが海に沈んだ。沈みながらも葬儀屋の落としたネックレスはしっかりと握りしめていたシエルの襟首を、水上へと引っ張る者が。

ーーーーザバァッ.



「ぶはっ」

『シエル!』

「ゲホゴホッ」

「降ろすのが間に合わなかったんでしょう。沈没中の船から救命ボートを拝借して参りました」



先に回収されていたダリアは咳き込むシエルの背中をさする。



「これを着て下さい」



ダリアが着ているのと同じ救命防具をセバスチャンがボートにおろす。



「温かいお茶がご用意出来ず申し訳ございません。お二人とも、今しばらくご辛抱下さい」



悴んだ手でなんとか救命防具を着たシエルは、悲鳴が聞こえる先を見た。自分が助かろうとする者や、助けを求め暴れる者…一種の地獄絵図のような光景だ。



「『………』」

「戻ればこのボートも沈められるでしょうね」



「離脱しましょう」とセバスチャンはボートに手を添えると泳ぎはじめた。寒さに自身を抱きしめ腕をさすっていたダリアは、うとうとし始めたシエルに気付く。



『シエル!寝ちゃ…』

「なっ…!!」

『!?』



セバスチャンの驚いたような声にダリアもシエルもそちらを見て、驚愕に目を見開いた。セバスチャンの足に、ビザール・ドールがしがみついていたのだ。



「くッ」



噛みついてきたソレの頭めがけセバスチャンが蹴り潰した。



『なんでコイツが…!』

「奴らは水の中で動けるのか!?」

「呼吸の必要がないので溺死しないという事でしょう」

「それじゃ「シッ!静かに!」



話していたシエルの口をふさいだセバスチャン。直後、いくつもの気圧が海中から不気味に音を立てながら沸き上がってきた。



「ま…まさか…」



徐々にその姿は現れた。



「これは…ッ」



シエル達の前方に、埋め尽くすような勢いで現れたソイツら。幾つもの頭が水面に浮かび上がっていた。



「上がれセバスチャン!」



シエルがセバスチャンに手を伸ばしたちょうどその時、一体がセバスチャンに噛みつこうとした。



「!?」



間一髪ボートにあがったセバスチャンだったが…。



『!!』



ボートにソイツらは上がり込もうとしてきた。



「くっ」





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