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『え…お風呂?』



1ヶ月ぶりのどこも変わらない自室に来ていたダリアは、セバスチャンに無表情に首を傾げた。



「ええ。坊ちゃんはいいとして、お嬢様はもう立派なレディでございます。今この屋敷には私以外の使用人が居りませんから…如何なさいます?」

『別に気にしない』



迷うことなく言ったダリアにセバスチャンは目を瞬かせた。



『もう…慣れた』



ベッドに腰掛けて足をブラブラさせるダリアのその言葉に、セバスチャンは一瞬眉根を寄せるがすぐに笑顔を。



「…承知致しました。では、先ずは坊ちゃんの方から」

『ええ』



部屋を出る直前、セバスチャンは口元に笑みを浮かべていた。それからシエルの入浴時間。



「熱い!!!」



その声は外で鳴いていた梟がビビる程切羽詰まっていた。



『…シエル?』



なので、自室でぼーっとしていたダリアもこの時ばかりは何があったんだ?と気にした。ちなみに何があったかと言うと。



「いきなりお湯をかける奴があるか、温度ぐらいみろ!!」

「申し訳ありません。次は気をつけます」



と、言っているセバスチャンは「これで熱いのか…」と納得。



「では失礼してお身体を」

「痛い痛い痛い!」



初めてのことなので力加減もわかっちゃいないセバスチャンでは、皮膚が剥がれるのではと思うほどの痛さだ。



「もういい触るな!もう上がる!!」



確かに、このまま入っていれば何をされるかたまったもんじゃない。



「そんな小汚い身体で何を言ってるんです。傷が化膿でもしてコロッと死なれてはかないませんからね」

「ツ」



その言い草にムカァッ…とシエルはセバスチャンを睨みつけるとお湯をかけた。



「出ていけ!!」



いきなりの事に避けることが出来ず、セバスチャンはマトモに正面からお湯をかぶった。



「……かしこまりました」



外に出たセバスチャンは心の中で悪態をつく。



「(あのクソガ…)」



ーーーーガシャーン.



「どうしました!?」



最後まで言うことはなく、中から聞こえた騒音に慌ててセバスチャンは中に入った。



「ーーーー〜ッ」



中に入るとシエルが倒れていた。セバスチャンが慌てて手をかすと、シエルは額をおさえながらヨロヨロと立ち上がる。



「タオルを取ろうとして滑っただけだ」



それで額を強打したようだった。



「……」



はあ〜…とセバスチャンは大きなため息を。



「今日は色々あってお疲れなのでしょう…お身体をお流し致します」

「いいって言ってる」



と、シエルが手を弾き返したところでセバスチャンがキレた。

ーーーーガッ.



「!?」

「意地を張るのも大概になさい」



セバスチャンはシエルの頬をわしづかむと威圧感たっぷりに見下ろしながら詰め寄る。



「ヒトというひ弱な動物は、小さな傷から入った細菌程度であっさり命を落とす。手当ても自分で出来ない子供が、手間を掛けさせないで下さい」

「…………」



呆然とセバスチャンを見上げていたシエルは無言で視線を逸らしていた。それからなんとか入浴も完了して、シエルの身体を拭いている時だった。

ーーーーぐうぅぅ.

シエルのお腹が鳴った。



「ヒトというのは、どんな状況でもはしたなく飢えるものですね」

「…うるさい」

「もう少々お待ち下さい。お嬢様のご入浴が終わりましたら、すぐに晩餐の支度を」

「……」



シエルの着替えを済ませて髪を乾かすと、次にダリアのもとに向かった。



「お嬢…」



が、扉を開けて見ると、そこにダリアの姿はなかった。



「お嬢様?」



前室から寝室、ドレスルーム、バスルームを見ていくが、どこにも見当たらない。



「(まったく…勝手に出歩いて)」



ハア、と大きくため息を吐いた時、セバスチャンだからこそ聞き取れた、物が地に落ちた音が聞こえてきた。



「お嬢様!?」

『ーーーー〜ッ』



廊下の先で先程のシエルと同じようにしゃがみ込んでいるダリアの姿を見て、こんな所まで一緒かよと思いながら慌てて駆け寄る。



「どうなされたのですか?」

『…ちょっとよろけただけ』



セバスチャンはダリアの隣にある、砕けた花瓶を見る。



「お怪我は?」

『平気』



答えながら立ち上がろうとしたダリアだったが、立ち眩みに身体が傾く。

ーーーートッ.

地面に倒れてしまう前に、セバスチャンはダリアを支えた。



「ご無理をなさらないで下さい」

『ッ』



いきなり抱え上げられダリアは落ちないように思わずセバスチャンの燕尾服を握りしめた。



「そのまま捕まっていて下さいね」



言うやセバスチャンはダリアの部屋に向かうべく廊下を歩き出した。



『下ろしてッ、自分で歩く「あの様なフラフラとした足では朝になってしまいます」



セバスチャンのその言葉にムッ、とダリアは眉根を寄せる。



「それより、何処へ行こうとしていたのですか?」



聞かれて、気まずそうにダリアは顔を背ける。



『…教える必要ない』



その言い草に今度はセバスチャンが少しばかり機嫌を悪くしていた。それからは無言で歩き部屋に来るとバスルームに真っ直ぐ向かった。



「では」



ーーーーバン.



『!?』



床に下ろされた直後、セバスチャンに壁に押さえつけられたダリアは目を見張る。



『何…』

「慣れて、いらっしゃるのでしょう?でしたらお気になさらないはず」

『ッ…』



喋る度に耳に掛かる吐息に、ダリアはビクッと肩を揺らした。何より、目の前にいるこの男の発する空気が怖い。



『ぅ…んっ、やだ…っ!』



首筋から鎖骨へとなぞるように舐め上げられ、ダリアは思わず出た声に唇を噛み締める。



「傷が出来てしまいますよ」



ペロ、とセバスチャンはダリアの唇を舐める。



『!』



服の裾から手が滑り込んできたのに、ダリアは声を荒げた。



『止めて!!』



ありったけの力でセバスチャンを押し返せば、思いの外アッサリとセバスチャンは離れた。



『はあ…はあ…』



ズルズルと壁に背を預けてしゃがみ込んだダリアは、自身の肩を抱いて大きく呼吸を繰り返していた。



「わかりましたか?」



セバスチャンはダリアの前に跪き呆れながら言う。空気の変わったセバスチャンにダリアはぽかんと目を瞬かせる。



「これからは気安く、男の前で素肌を見せても良いなど言わないように」

『…』



呆然としていた##NAME1##は、瞳を伏せると顔を俯かせた。



『普通に口で言えばいいんじゃ…』

「口で言うより、実践した方が手っ取り早いでしょう?」



言いながら服を脱がしにかかるセバスチャンの手をダリアは弾いた。それにきょとんとしていたセバスチャンは、怯えた目を向けるダリアに笑いかけた。



「ご安心下さい。ご入浴の為に脱がせるだけでございます」

『…本当に?』

「何度も申し上げておりますでしょう。私は、嘘は言いません」



そう言うと、ダリアは納得したのか警戒心を解いたので、それにクス、と笑いながら「失礼します」とセバスチャンは服に手をかけた。





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