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その執事、成長





「ほっ、本当に現れた!!」



彼は、左へ視線を向けた。



ーーーー違う。



「私に永遠の命と富を与えたまえ!」



彼は、右に視線を向けた。



ーーーー違う



そして、見つけた。



「ーーーーおや」



ーーーーコレだ。



「貴方がたは大きな犠牲を払った」



檻の中にいるシエルと、地面にへたり込んでいるダリアに向かって彼は言う。



「悪魔(わたし)と契約して、願いを叶えるも叶えないも貴方がたの自由」



そこまで言って彼は唇をなめる。



「渡り賃はしかと頂きましたから」

「ぼ、僕らは…」



シエルは檻を握りしめ、ダリアは地面についていた手に力を入れる。



『力が…欲しい…!』

「僕らをこんな目にあわせた奴らに復讐する力が!!」

「ひ…!?誰かアイツらを黙らせろ!」



ざわめく周りに構わず、二人は言った。



「『悪魔!お前と契約する!!』」



迷いなどなく、真っ直ぐに見てきた二人に彼は笑む。



「光を棄て、奈落への道を選ぶと…良いでしょう。では互いの身体に契約書を。目立つ場所に刻む程、大きな力を執行できる。さあどこに「『どこでもいい』」



彼の言葉を最後まで聞かず怒鳴るように二人は言った。



「『誰にも負けない力が欲しい!!』」

「小さな身体で何と強欲な」



二人の頬に手を添えると、「では」と彼は動いた。



「絶望的な世界を映す、その大きな瞳に!絶望的な世界で泣き叫ぶ、その陶器の首筋に!」



次の瞬間、眩い光が辺りを覆った。












さっきまでいた建物は今は炎に包まれていた。

ーーーー彼らが私に願った事は3つ。

“彼らが復讐を遂げるまで、裏切らず守り抜く事”

“彼らの命令に、絶対服従である事”

“そして、絶対に嘘を吐かない事”

ーーーー伯爵やご令嬢に仕える執事として、スマートにこなすにはどれも骨が折れそうな仕事だ。



『どこかにファントムハイヴ家を滅ぼそうとした奴がいる』



血に汚れたダリアの手の平の上には、同じく血に汚れた指輪があった。



『フランシス叔母様が言ってたわ。反撃する最高のチャンスは、相手が仕掛けてきた時だって』



言って、ダリアはその指輪をシエルの手の上に落とすように渡す。



「先代は勝負に負けた。今度は…僕らは絶対負けない」



渡された指輪をぎゅっ…と握りしめた。



「ファントムハイヴ家当主、シエル・ファントムハイヴとして…絶対に!」

「ふふ」



後ろで笑った彼に二人は顔だけ向ける。



「……何がおかしい」

「いえ。私には嘘を吐くなと仰るのに、貴方がたはとても嘘吐きでいらっしゃる」



ギロッ、と二人は子供らしからぬ瞳で彼を睨むと、プイッと顔を背けた。それを見ての彼の心情は、何とまあ面倒な、だ。

ーーーーしかし、たとえヒトの子が一生を終える程の時間が掛かったとして、私には瞬きの間の事。少しの間の暇つぶしになって、腹が満たされればそれでいい。



「ではご主人様方。お屋敷に戻りましょう」

「『場所がわからない』」



笑顔で手を差し出していた彼は「えっ」と固まった。



『ここがどこかもわからないし…』

「ロンドンの王立病院に親戚がいる。まずはそこへ」

「かしこまりました」



踵を返して歩き出した彼はうわー…と片眉を下げた。

ーーーーこれはこれは…とんでもない箱入りお坊ちゃまとお嬢様に仕える事になってしまった。



『…待って、悪魔』



遠慮がちに尻尾(テール)を掴んできたダリアに驚きながら彼は振り向く。



「お前名前は?」



ーーーーどうやら、相当気が合うようだ。

問いかけてきたのがシエルだったのを見て彼はそう思うと、笑いかけながら言った。



「ご主人様方のお好きな様に」

『…名前、ないの?』



その問いには答えず、彼は笑みを深めるだけだった。



「『じゃあ…』」



二人は顔を見合わせて、彼を見上げながら同時に言った。



「『セバスチャン』」



彼は、あまりのシンクロさに少しばかり目を丸くするが、二人は構わず続ける。



「今日からお前はセバスチャンだ」

『好きな様にって言うから…いいわよね?』

「かしこまりました。では今から私の事はセバスチャンとお呼び下さい」



ふと、気になったので問いかける。



「前任の執事の名前ですか?」



何の意味もなく揃うなんて有り得ない。だが、二人は違うと首を横に振って言った。



「『犬の名前』」



それを聞いて、彼、セバスチャンは笑顔のまま思った。

ーーーー前言撤回。とんでもなく性悪な姉弟に仕える事になってしまった。

それから三人は病院に来ていた。



『アン叔母さ…ダレス先生を』



ーーーーガシャンッ.

受付で叔母のアンジェリーナを呼んでもらおうとしていたのだが、聞こえた大きな音に三人はそちらを見る。



「あ…ああ…!!」



車椅子から落ちたらしいその老人を見て、二人は驚きながら駆け寄った。



「『じいや!?』」

「坊ちゃん…っお嬢様!!」



駆け寄ってきた小さな二人を、老人…タナカは力いっぱい抱きしめた。



「よくぞ…よくぞご無事で…!」




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