「テーブルを切るのなんて、クッキーを割るのと変わらない」
と、前方を見た葬儀屋だったが、そこにセバスチャンの姿がないことに驚く。
「リーチの広い大鎌の懐に入りたかっただけです」
葬儀屋の背後に回っていたセバスチャンは、葬儀屋を蹴り上げようとしたが葬儀屋は避けた。
「面白いこと考えるねぇ執事くん〜」
そう言う葬儀屋の後ろの方では、シエルがダリアに手を伸ばしていた。
「なら…」
「ダリア」
『ありが…』
ーーーートッ.
「小生も」
「「『!?』」」
気づいた時には、ダリアは葬儀屋に捕まっていた。葬儀屋はダリアの耳に口を寄せると囁くように言った。
「やっと小生特製の棺に入ってもらえるねダリア嬢…」
『なッ…』
吐息が耳にかかりピクリと肩を揺らして眉根を寄せる。その時葬儀屋の背後に迫るセバスチャンが視界に入ったのだが、それがすぐに後ろ姿に変わった。
「来ると思った」
セバスチャンの視界の端に、シエルとダリアの足が横切った。葬儀屋はセバスチャンが来ると同時にダリアをシエルに向かって投げたのだ。足をくじいていたシエルが支えきれるはずもなく、二人は今度こそ宙に出ていた。セバスチャンがダリアを抱えるシエルに手を伸ばし、シエルもセバスチャンに手を伸ばす。一度絡まったその指は、また離れた……その時だった。
「弱くて脆いけれど、ヒトの命を引きずるのは結構大変なんだよ。執事くん」
セバスチャンは葬儀屋のデスサイズによって体を貫かれた。
「前から興味あったんだよねェ…害獣風情が何故、燕尾服(お着せ)で執事なんかしてるのか」
デスサイズを引き抜くと、葬儀屋は今から起こることを悟りながら目を細める。
「見せてもらうよ。君の走馬灯」
直後、血に紛れるようにレコードが現れた。
「『セバスチャン!!!』」
レコードの向こうで、セバスチャンは二人の驚愕した顔を見たが、その姿も見えなくなった。
ーーーー「『セバスチャン!!!』」
嗚呼 呼んでいる。
悲しみと 怒りと 混乱と 絶望の中で。
呪いの言葉を吐いている。
私を 喚んでいる。
「貴方がたのお名前は?」
「僕の名前は………シエル。シエル・ファントムハイヴ。ファントムハイヴ伯爵家を継ぐ者」
「…そちらは?」
『ダリア。ダリア・ファントムハイヴ…この子の姉よ』
「ふふ…成程、良いでしょう。では私も、伯爵やご令嬢にお仕えするに相応しい姿にならなくてはね」
一歩踏み出した彼の姿が、瞬時に変わった。
「ーーーーさあ、何なりとご命令を」
二人の前で彼は目線を合わせるように腰を曲げて言った。
マイロード
「小さなご主人様」
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