セバスチャンが取り出した銀食器のナイフを構えた時だった。
ーーーーブロロロロ.
「!?」
目の前に迫っていたロナルドのデスサイズを慌ててしゃがんで避ける。
「おっとォ。間違えちゃった」
明らかに嘘だろう事はわかる。
「随分と目がお悪いようです、ねッ」
イラァ、とセバスチャンは青筋浮かすとロナルドに向かってナイフを投げる。
「おっと」
避けたロナルドの後ろには葬儀屋。
「死神は皆ド近眼だからねェ〜〜」
言いながら葬儀屋はナイフを弾き落とす。
「じゃあアンタは不利ね!!」
ーーーーガッ.
「えっ…」
デスサイズを振るったグレルは戸惑いに固まってしまった。
「(切れた!?)」
葬儀屋が持っていた板は、いとも簡単に真っ二つに。
「(じゃあ、あの時はなんだったの!?)」
ニイ…と笑った葬儀屋はグレルを蹴り飛ばした。そこにロナルドが向かってきたが、葬儀屋はロナルドの背中に軽く着地。
「ツ!!」
一直線に振り下ろされてきた板を首をそらしてギリギリ避ける。
「ッべぇ眼鏡!」
が、ホントにギリギリだったので眼鏡が弾かれてしまった。
「目に頼ってるようじゃまだまだ青いねェ〜」
言いながら葬儀屋はロナルドの顔面を蹴り飛ばした。
「何やってんの…ヨッ」
飛ばされた眼鏡をキャッチしてそのままロナルドへとグレルは投げる。
「サンキュー先」
「ぱ」と言った時、眼鏡がナイフに引っかかり伸ばした手から遠ざかっていった。もちろんそれはセバスチャンの仕業。
「おやおや」
投げられてきたナイフを葬儀屋は板で防ぐ。
「そんな小さな食器で、小生が狩れるかなァ〜?」
「デスサイズには劣りますが…」
セバスチャンは突きつけられた板を掴み止めナイフで素早く切れ込みを入れる。
「当家のシルバーの切れ味は一級品ですから!」
板は細々と切り分けられてしまった。
「な〜るほど」
床に散らばっていた板を葬儀屋はセバスチャンにむかって投げたが、セバスチャンは避ける。
「ほらほらどうしたんだい?3人がかりで、そんなものなのかねぇ?小生を狩るんだろ〜?」
「マッジでムカツクんスけど…」
「急ぐワヨ。船が大分傾いてる、もう時間がないワ」
腕時計を見て「…っスね」とロナルドは頷く。
「なりふり構っていらんない!!」
「真っ向勝負しかないっスね!!」
同時にグレルとロナルドは葬儀屋にデスサイズを振るったが、どちらも葬儀屋の板に防がれた。
「また!?ありえない!デスサイズに切れないモノなんてないハズ…ッ」
なのにーーーー。
「なんでデスサイズを受けてられんの!?」
葬儀屋が笑みを浮かべる。
「なんでも切れるデスサイズ…か。君はその謳い文句、奇怪しいと思わないかい?」
「!?」
「ま、小生にとっちゃ可笑しくもなんともないがねぇ〜」
葬儀屋は前髪の間から二人を見据えた。
「一つだけあるだろう?切れないモノ」
「まさか…ッ」
次の瞬間、葬儀屋は二人に傷をつくって弾き返した。
「がはっ…」
大きな傷を負った二人は床に倒れながらも葬儀屋を見る。
「…くっ…あれは…」
葬儀屋の手にあるのは、板なんかじゃなかった。
「死神の鎌(デスサイズ)!!」
黒光りする刃の大鎌。
「成程。デスサイズが複数存在する時点で、なんでも切れるという謳い文句は偽りですね」
「引退時に絶対回収されるんじゃ…」
「長いこと一緒にやってきたから、離れがたくてねェ。持ち出すのに苦労したよ〜」
つまり盗み出したも同然だった。
「さあ、今度は小生が君らを飼ってみせようか?」
葬儀屋はデスサイズを振り上げる。
「競技狩猟(ハンティング)の哀れな兎のように」
次の瞬間、葬儀屋は大きくデスサイズを横に凪ぐように振るった。その攻撃に辺りが所々崩れ始める。
「『!!』」
二人がいた階段も直接の被害はないが所々崩れたりして地震がきたかのように揺れる。
ーーーーバキッ.
『え』
背中にあった手すりが壊れ、落ちないようにと捕まっていたダリアは宙に投げ出された。
「ダリア!」
「!」
ーーーーガッ.
『ッ…大丈夫よ!』
地面に落下する前に、ダリアは手をかけてなんとか留まった。
「お嬢様」
『セバスチャン、私はいいからさっさとそいつを捕らえなさい』
向かおうとしたセバスチャンはダリアにそう言われ、向かおうとしていた足を止めた。
「御意」
パシッ、とセバスチャンは落ちてきた椅子をキャッチすると葬儀屋に投げつけていく。次々とテーブルや椅子が降ってくるので、その全てを葬儀屋に投げる。
「無駄だよ」
だが、葬儀屋はそれら全てをデスサイズで切った。
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