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その執事、動揺





「『葬儀屋…!?』」



セバスチャンの肩越しに、シエルとダリアは素顔を見せる葬儀屋を戸惑いながら見る。そんな二人に、葬儀屋は笑みを浮かべながら視線を向けていた。



「上手に気配を隠してましたね」



ガラスの落ちる音が静まった頃、セバスチャンが口を開いた。



「瞳≠煢Bされていたので、私も気付きませんでした」

「アタシもよ。ヤラれたわ」

「先輩!あの瞳…」

「ええ。あの黄緑色の燐光は間違いなく…死神!」



「ヒッヒッ」と葬儀屋は笑う。



「懐かしいねェ。そう呼ばれるのは半世紀ぶりだ」

「葬儀屋が…死神ーーーー!?」

『そんな事が』

「どういうことだ葬儀屋!!」



驚いていた二人の後ろからリアンが駆け下りてきた。



「この装置があれば、あの死体は制御できるって言ったじゃないか!」

「そーだっけ〜?」

「!!騙したのか…嘘だったのか!?完全救済を広めに、アメリカに渡るって話も全部!!」



怒るリアンに「だって」と葬儀屋は悪びれた様子もなく言う。



「君、真剣に医学で死人を生き返らせようとしてるからおかしくってさァ…小生の目的には、おあつらえ向きの人材だったんだよ」

「では医学によって全世界を健康にするという我々の目的は…!?」

「それは君の目的デショ?」



「それに」と葬儀屋は続ける。



「君の持つ医療の力では、人体蘇生は成し得なかった。小生の技術に頼った段階で、それはもう医学じゃないし、自分で理解し得ない施術を患者に施すような奴はもう、医者じゃあないね」

「そ…そんな…」



ガク…と膝から崩れ落ちたリアンの頭にポンッと葬儀屋は手を乗せる。



「君は小生の話を、馬鹿正直に信じてくれたいい子だったよ」

『話はもう終わったかしら?』

「お前が暁学会の人体蘇生実験の首謀者というわけか。葬儀屋!」

「内緒∨ーーーーと、言いたいトコだけど、伯爵姉弟には不死鳥ポーズでさんざん情報量を支払ってもらったからね。教えてあげよう、ヒッヒ…」



嫌な事でも時にはやっておくもんだな、と二人は思った。



「確かに、この動く死体を造り出したのは小生だ」

「なんのために!」

「そうだねェ、最初はたぶん…ただのヒトへの好奇心だった」

『好奇心?』

「そう」



ヒトは「肉の身体」と「魂」…その二つが揃えば生者としてこの世に存在し、人生の記憶走馬灯(シネマティックレコード)≠記録し続ける。そして肉の身体が朽ち、死神が魂を回収すれば、そこで走馬灯は終わり生者は死者となる。死神はリストに沿って、ヒトの魂を肉体から抜きとり、レコードにエンディングをもたらす者。



「毎日毎日坦々と。淡々と」



ーーーーだけど、死神としてそんな毎日を長い間送っていた小生はある日考えた。



「エンディングの続きがあったらどうなるんだろう?」

「「!?」」



魂を失い、終わりを迎えた記憶に続きをつないでやったら、肉の身体には何が起こるのだろう?



「何せ死神が狩るのは魂だけ。『肉体』も脳にある『記憶』もこの世に残ってる」

「まさか…レコードを編集したってこと?」



グレルの問いにヒッヒッと葬儀屋は笑う。



「さてね。自分の能力で彼らのレコードを見てみたら?」



グレルはすぐさまその辺にいたソレにデスサイズを振るった。二つ分のレコードが現れ、病死、事故死を迎えてどちらも最後には「END」の文字が現れた。

ーーーーパッ.



「!?ちょっ、何コレ!?」

「これは…!!」



レコードは終わることなくENDの次に、ちょび髭をした葬儀屋が延々と続きだした。



「!?何が起こってる!?」

『一体どうしたのよ!?』



人間である二人には何にも見えてない。



「死と共に訪れる走馬灯のエンドマークは、こうして小生が偽の記憶(レコード)をつないだ事によって、永遠に訪れなくなった」



つなげるとしても他になかったのか、と思ってしまった。



「そうしたら…なんと「まだ人生が続いてる」と勘違いした肉体部分は、魂を持たないまま、再び活動を始めたのさ!」

「!」

「全ての生物は、本能的に欠けたものを埋めようとする」



身体に傷ができれば塞ごうとする。精神が孤独を感じれば、それを埋めるために他者を求める。



「だから彼らも、本能的に欠けたもの…魂≠求め生者の身体を開こうとする。終わらない走馬灯の帳尻を合わせるためにね」

「!だから目も耳も効かないのに、僕らの魂を追って…!?」

『他者の魂を、自らの魂にするために…!?』

「他人の魂なんて、自分のモノにできるワケないんだけどねェ…」



一瞬瞳を伏せてそう葬儀屋は呟いていた。



「でも小生は、レコードは弄れても魂までは造れない。たくさん実験してみたけど、ほとんどの子は自我を持たない肉人形にしかならなかった」



だから葬儀屋は彼らをこう呼んでいるそうだ。



「生者でもなく、死者でもない。『歪んだ肉人形(ビザール・ドール)』」

『最悪…』

「悪趣味にも程があるな」



嫌悪を表しながら顔をしかめる二人に「ヒッヒッ」と葬儀屋は笑う。



「この美しさがわからないとは、伯爵もダリア嬢もまだまだだねェ〜〜〜」



葬儀屋は一体の血に汚れたビザール・ドールを抱き起こす。



「生前のままに美しく縫合された蝋のように白い肌。姦しく騒ぎ立てることも、嘘を吐くこともなくなった口。生きてた頃よりずっと美しいだろう?」

「『吐き気がする!』」



顔色悪く吐き捨てた二人。



「君らはそう言うけど、このビザール・ドールを欲しがる人間もいるんだよ?」

「「『!?』」」

「この子達は痛みも恐怖も感じない。ひたすらに魂を求め生者を食らう…」



ニイ、と葬儀屋は口元を歪ませた。



「どうだい。最高の動物兵器だろう?」

「『なっ』」

「「「…!?」」」

「その酔狂な連中がコレがどの程度使えるのか見たいって言うから、豪華客船に同数の人間と『歪んだ肉人形』を放り込んで実験してみることにしたんだ。殺し合わせて、どちらがどの程度生き残るのか?」

「…壊れてますね」

「ヒッヒッ。でもまさか氷山にぶつかるなんて思ってもなかったよ。死神を辞めた小生はもうリストを持ってないし…ま、沈没させる手間が省けて、一石二鳥だったけどね」

『手間が省けたって』

「成程。この船は初めからアメリカ行きではなかった…と」



無表情にセバスチャンが言う。



「君らのせいで思ったよりたくさん人間が生き残ったようだけど、小生怒られちゃうかな」

「フン。ますます見逃せなくなったワネ」

「っスね。死神が死≠歪ませるなんてありえなさすぎ。つっても、眼鏡ないし、たまにいる離脱組≠チてヤツ?」

「なんだってイイワ。とにかく、死神による人間界への生死に関わる干渉はルール違反」

「センパイが言うんだ」

「動く死体の仕組みを吐かせるためにも、ふん縛って上に突き出すのが手っ取り早そーネ…」



あのグレルが真面目な事言ってる…と二人は少しばかり意外そうに顔を見合わせる。



「それに」



ん?と二人はグレルを見る。



「ルール違反以上に乙女の顔に傷をつけた罪。いくらイケメンでも許されないワヨ!!ゴルァ!!」

「『(やっぱ変わらない)』」



そう見ているとグレルはデスサイズを振り上げ葬儀屋に襲いかかった。



「おっと」



葬儀屋がそれを板で防いでいるとその背後にロナルドが回った。



「後ろ取ーーーーっだァッ」



セバスチャンはロナルドに蹴りを食らわせるとそのままの流れで葬儀屋に振るうが葬儀屋はかわす。



「ちょッ」



しっかり食らったロナルドは壁際まで飛ばされた。



「セバスちゃん、どーゆーつもり!?」

「貴方がたに彼を連行されては困りますので」

「あ゛ん!?」

「僕らも女王の御前に真実を献上する役目がある」

『ここでそいつを逃がすわけにはいかないのよ!』



セバスチャンの背後の階段から二人が言う。



「という訳で、彼の身柄は我々が拘束させて頂きます」

「これは死神界(アタシたち)の問題よ!外野は引っ込んでて!」

「こちらも執事の仕事です。外野は引っ込んでて下さい」



珍しく真面目に、殺気満々で睨み合う二人。



「ハッ。相変わらずシビレるストイックさねセバスちゃん。いいワ、そっちがその気なら、こっちも遠慮しないワヨ!」



そう言ったグレルにセバスチャンは冷めた目で一瞥しながら一言。



「貴方の辞書に『遠慮』という単語が存在した事が、本日一番の驚きです」



そこまで!?



「んじゃシンプルに早い者勝ちってことで」



ゆら…と立ち上がったロナルドはギロッとセバスチャンを睨みつけた。



「オッサンに負ける気しないケドね!!」



どうやら蹴られて庇った手首が相当痛かったようだ。



「ヒッヒ…まるで兎狩りだねェ…さて」



囲まれている中、葬儀屋はまるで他人事のように言った。



「狩られる兎はどちらかな?」



その言葉を合図に、同時に三人は葬儀屋に向かった。





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