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その日の午後。



『あら、お帰りなさいませリクオ様』

「うん…」

『?』



玄関前の掃き掃除をしていた水妖は帰ってきたリクオに声をかけるが、返事は朝とは違い暗いものだった。どよーん、と背中に心なしか黒いものがのしかかっているようにも見える。



「どーしたんですかリクオ様。元気がないですよ」

「うん、ちょっとね」



縁側に腰掛けて意味もなく石を庭へと投げるリクオに、首無が問いかけるがやはり返事は暗い。



「今日は親分衆の寄合があるんですから、元気出して」

『リクオ様!』



ぱたぱたと水妖が廊下を駆け足にやってきた。



『総大将がお呼びですよ』

「おじいちゃんが?」

『はい。いきましょう?』

「うん…」



リクオの手をとり水妖はリクオの祖父であり、奴良組の総大将でもあるぬらりひょんのもとへと向かった。

その頃廊下ではーーーー。



「うわ…すげっ〜〜」

「全国からすげぇ大物妖怪たちが集まってんぞ」

「今日は総会か〜」



沢山の妖怪達がゾロゾロとやってきており、全員同じ一つの部屋へと集まった。



『総大将、リクオ様をつれて参りました』

「おお、すまんかったのう。それじゃ、入るとするか」



別室でお茶を啜っていたぬらりひょんは立ち上がり、がらりと襖を開けた。



「おお!総大将」



上座へとあがるぬらりひょんとリクオ。



「やあやあごくろう。どうじゃい?みんな最近。妖怪を楽しんどるかい?」

「へへへ…シノギは全然ですな」

「ところで総大将。今回はどういった?」



一人の妖怪の問いに、ぬらりひょんはニヤッ…と笑みを浮かべた。



「うむ…そろそろ…三代目を決めねばなと思ってなぁ」

「おお…それはよいですなぁ」



ーーーーガゴゼ。
奴良組系ガゴゼ会頭領。生前悪さを働いた男が埋葬された寺で死してなお妖となって小僧を襲っていたという。子供をさらい喰う妖怪。



「二代目が死んでもう数年…いつまでも隠居された初代が代理では…おつらいでしょう…」



ガガガ…と笑ったガゴゼ。



「総大将!悪事ではガゴゼ殿の右に出る者はおりますまい!」



ガゴゼの支持者か、周りの妖怪がすり寄ってくる。



「なんせ、今年におこった子供の神隠しは…全てガゴゼ会の所業ですからな!」

「いやいや…大量に子を地獄に送ってやるのがワシの業ですからな」

「いやーさすが妖怪の鏡ですなー!!」



ハハハと笑う奴らを信じられないという風に見つめるリクオ。



「フン…」



そして、水妖や他の妖怪たちは、そんなガゴゼをジッとみていた。



「なるほどのう。あいかわらず現役バリバリじゃのうガゴゼ…」

「おまかせ下され…」

「だが…お前じゃあダメじゃ。三代目の件…このワシの孫、リクオをすえようと思ってな」

「!?」



その場は驚きを露わにした者ばかりであったが、中でも最も驚いていたのはガゴゼだった。水妖も驚くが、すぐに嬉しそうこっそりと口角を上げていた。



「な…なんじゃとぉ〜〜〜〜〜〜」

「なんとっ…リクオ様とは……」

「まだ幼い子供ではないか…たしかに総大将の血は継いでいるが…」



一斉に騒ぎ始める妖怪達。



「どうしたガゴゼ…顔色が悪い」

「そっ、そんなことはないぞ…木魚」



指摘されたガゴゼはすぐに取り繕ったが、動揺は隠しきれていないし明らかにその表情は何故、という感じだ。だが、この場で一番驚き何故、と思っているのはリクオ本人であった。



「じいちゃ……」

「どうしたリクオ…よろこばんか。お前が欲しがっとったもんじゃろ」

「ぇ」

「ワシの血に勝るものはない。お前はワシによーく似とる。本家の奴らもそれは十分承知。のう水妖?」

『はい』



ぬらりひょんの問いかけに迷うことなく水妖は頷き返した。



「さぁ採決を取ろうではないか!!リクオ…お前に継がせてやるぞ!」



スッ、と手を妖怪達へと向ける。



「奴良組72団体…構成妖怪一万匹が今からお前の下僕じゃ!!」



ぬらりひょんも水妖も、リクオは喜んで継ぐと思っていた。毎日ぬらりひょんの真似事をやっては三代目の代紋を欲しがっていたのだから。

しかし…。



「い…いやだ!!」



思っていたモノとは真逆の答えがかえってきた。一瞬の間の後、水妖は目を点にさせて固まった。



「何?」

「こ…こんな奴らと一緒になんかいたら、人間(みんな)にもっと嫌われちゃうよー!!」

「リクオ…?」

『わ、若…?』



顔を青ざめて必死になって言うリクオに対し、ぬらりひょんはえ、お前何言ってんの?みたいな顔をして、水妖は口元を引きつらせていた。



「妖怪が…こんな悪い奴らだって知らなかった!おじいちゃんになんかぜんぜん…似てないよ――――!!」

「あ」



言いながらリクオは部屋から飛び出してしまった。



「こりゃリクオ!!」

『リクオ様ぁ!?』



呼び止める声を背に聞きながらも、リクオは戻ることはなかった。






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