2関東平野のとある街、浮世絵町ーーーーそこには、人々に今も畏れられる極道一家≠ェあるという。
「若ーー」
『若様ーー』
純和風の年期を感じさせる屋敷の庭に、二人の少女がいた。なにやら人を捜している様子。
『あ。雪女、いた!』
長い水色の髪をした少女が、木の脇を指差して言う。
「あら、そんなところで…どうされました?」
雪女、と呼ばれた黒髪の少女は不思議そうに首を傾げた。
「う〜ん、う〜ん……」
木の脇に座り込んでいる少年は、二人に背を向けてうんうんうなっている。
『リクオ様!?』
「お腹痛ですか!?」
『ど、どうしましょ…』
慌てて二人は少年へと駆け寄ったのだが……。
――――ググイッ.
「『えっ』」
――――ポォォォォォォン.
「『うわっ!?』」
足を何かに引っ張られ戸惑ったのも束の間。二人はググイッと後ろへ引っ張られたかと思うと、木の枝にかけられていた紐にそれぞれ足首をとられ逆さ吊りに。
何がなんだかと頭に大量の?を浮かべる。さらには目までまわしていた。
「やった!妖怪ゲットォ〜」
「え?えっ?ええーー?」
『リ、リクオ様?』
ヒモの先…そこには二人が捜していて今までうんうんうなっていた少年が元気に小妖怪共と笑っている。
「雪女と水妖か!お前らはあいかわらずドジだな〜〜」
ーーーー奴良 リクオ 8歳・小3
「なっ!!」
『ちょっと!?』
「『若?』」
愉快そうに去って行くリクオに二人して大慌てで声を張り上げるも意味などない。
「あいつらどこまでさがしに…」
そこへ、リクオを捜していた雪女と水妖を捜しに来たがたいのいいデカい男とお坊さんの姿をした男がきた。
「あ」
何故か逆さ吊りの状態を見つけた二人はそれはもう驚き近づく。
「なんじゃ雪女に水妖、そのカッコはぁ!?」
「『おろして〜〜』」
「誰がこんなことを…」
二人に近づく…まではよかったのだが…。
――――ズボォォ.
「「いっ!?」」
突然、近づいた二人の足元に穴があき落ちてしまった。しかもかなりの深さ。
「なんじゃああああああ」
「おちるおちる!」
「ま、またやられたぁ〜!!」
「アハハ」
大慌ての二人の耳に届いた無邪気な笑い声。それはリクオの声だった。
「あ、やっぱり若様かっ…」
こんなことは日常茶飯事なのだろう…予想は大体ついていた。
「ま、待ちなさい若っ……総大将に似て…いたずらが…過ぎますぞぉ―――!!」
がたいのいい男は涙を流しながら叫んだ。
「ね、ねぇ水妖…頭に血が…」
『きゃーーー!!雪女が溶けちゃう!誰かー!!』
赤くなって湯気が出始めた雪女を見て、仰天した水妖は助けを求めて力の限り叫んだ。それから四人は騒ぎを聞きつけた助けが来るまでこのままだった。
*
「リクオ様」
「おはようございます!」
「今日もお元気ですねぇー!」
早朝、屋敷の廊下にはたくさんの妖怪たちがリクオを迎えていた。
「リクオ様、お着替えしましょう。小学校に遅れてしまいますよ」
ーーーー首無。その名の通り首が無い。
『ひどい目にあった…』
ーーーー水妖
「……」
ーーーー雪女
「こりゃ!お前たち!何をさぼっとるか…若のおつとめの手伝いをせんかー!」
ーーーー鴉天狗
鴉天狗は飛びながらこたつでなごんでいるゆるキャラな妖怪たちに注意する。
「ホーレ若!!頭洗ったらふきましょうねー」
ーーーー青田坊
「くくくく」
ーーーー黒田坊
リクオの頭を拭く青田坊だが、落とし穴に落とした報復と言わんばかりに自慢の力でゴリゴリと音をたてるほど痛くする。
「若ー!!くつです」
「靴下です!」
「足洗いです!」
「逆!!逆!!もう…みんなしっかり」
まるでコントのようなやり取り。
「あ、ランドセル…」
『リクオ様』
靴を履いてリクオはランドセルを忘れたことに気付いた。すると、声と共に背後からランドセルが渡された。
「水妖!ありがとう」
『いえ。いってらっしゃいませ、リクオ様』
「うん。いってきまーす!」
元気よく家を出て行ったリクオは、幼なじみの家長カナと共にバスに乗り学校へと行った。
そうして、やっと妖怪達は一息つく。
「やっと行ってくれたわい!」
「ほんと…総大将に似ていたずら好きで…元気がよくって!」
「ハハ…将来が楽しみですね」
『将来というと、あの子が三代目を継ぐんでしょうねぇ…』
「ええっ…どうかのうー。いくら総大将の孫といっても、人間の子供にワシら奴良組の長がつとまるかのう…?」
…奴良組ーーーーそれは、魑魅魍魎の主であり、百鬼夜行を従える妖怪の総大将である大妖怪、ぬらりひょんによる組。
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