疲れた時は酸っぱいものを
《ーーーーえー続いてのニュースです。先日来日した央国星のハタ皇子ですが、新設された大江戸動物園を訪れ〜》
たまたまつけたテレビニュースに、いつぞやのバカ皇子が映っていた。
「銀さん架珠さん。あの動物好きのバカ皇子、またこっちに来てたんスね」
暇潰しにと思い銀ちゃんの髪で髪にアイロンをして遊んでいたのだが…。
「ちょっと…きいてます?」
『きーてるきーてる』
「いや明らかにきいてないでしょ。銀さんなんて寝てるし」
スゴ!全っ然真っ直ぐになんない。これもう呪われてんじゃね?
「ただいまヨ〜」
「あ、おかえり」
『おかえり〜…?』
あれ?気のせいかな?
「トイレットペーパー買ってきてくれた?」
「はいヨ」
神楽が差し出したのはワンロールのトイレットペーパーだった。
「…神楽ちゃん、あのさァ…普通何ロールか入った奴買ってくるんじゃないの」
よく売ってあったね。いや、それよりも…。
「うあっつゥ!?」
『あ、ごめん。あてっぱだったね』
アイロンをずっと銀ちゃんにあてっぱだったようで、慌てて銀ちゃんがソファから起き上がった。
「てめっ、髪ちょっと焦げてんじゃねーかよ!」
『だからごめんって。それよりアレ…』
「アレ?………」
私が指差した方向をみた銀ちゃんはごしごしと目をこすり始めた。やっぱ幻じゃないのか。
「銀ちゃんが言ってたネ」
「ダメだよあの人の言うこと信じちゃ…ん?」
あ、新八気づいた。
「ぎゃあああああああああなにコレェェェェェェェ!!」
部屋にいたのは普通の大型犬よりも何倍もある白い犬だった。
「表に落ちてたアル。カワイイでしょ?」
「落ちてたじゃねーよ。お前拾ってくんならせめて名称のわかるもん拾ってこいや」
「定春」
「今つけたろ!!明らかに今つけたろ!!」
てかなんで定春?
「これ…首輪に挟まってたヨ」
神楽が新八へと渡したのは紙切れ。
「えーと…万事屋さんへ。申し訳ありませんがウチのペットもらってください」
「……それだけか?」
「(笑)と書いてあります」
「『笑えるかァァァァァァ!!(怒)』」
「うわっ!!」
私と銀ちゃんは紙を引き裂いた。何様だこの飼い主!!
『要するに捨ててっただけじゃん!!』
「万事屋つったってなァボランティアじゃねーんだよ!!」
「『捨ててこい!!』」
しかし神楽はそれを拒否。
「嫌アル!!こんな寒空の下放っぽいといたら、死んでしまうヨ!!」
「大丈夫だよ、オメー。定春なら一人でもやっていけるさ」
『だてに定春やってないからさ』
「アンタら定春の何を知ってんの!?」
「わかってくれるよな、定は…」
ーーーーバグン.
「「「『あ』」」」
近づいた銀ちゃんは定春に頭から食べられた。助けようとした私や新八もとばっちりをくらった。
…うん。やっぱり捨てよう。
「定春〜!!こっち来るアルよ〜!!」
公園で無邪気に走り回る神楽。私らはベンチに包帯まみれで座っている。
「……いや〜スッカリなついちゃって。ほほえましい限りだね新八君」
「そーっスね。女の子にはやっぱり大きな犬が似合いますよ銀さん」
『なんで私らにはなつかないんだろうか新八君』
「なんとか捨てようとしているのが野生のカンでわかるんですよ架珠さん」
「なんでアイツにはなつくんだろう新八君」
「なついていませんよ銀さん。襲われてるけど神楽ちゃんがものともしてないんですよ銀さん」
「なるほどそーなのか新八君」
遊び疲れた神楽はこちらへ来るとフーと息を吐き座った。
「楽しそーだなオイ」
「ウン。私、動物好きネ。女の子はみんなカワイイもの好きヨ。そこに理由イラナイ。そうでしょ架珠」
『そうだけど…アレカワイイか?』
私にはただの凶暴犬にしか見えない。
「カワイイヨ!こんなに動物になつかれたの初めて」
ーーーーゴウン.
「神楽ちゃん。いい加減気づいたら?」
向かってきた定春にぶつかられた神楽は吹っ飛んだ。私らは先に離れて避難。懐かれてねーだろアレ。
「私、昔ペット飼ってたことアル。定春一号。ごっさ可愛かった定春一号。私もごっさ可愛がったネ。定春一号外で飼ってたんだけど、ある日、私どーしても一緒に寝たくて、親に内緒で抱いて眠ったネ。そしたら思いの他寝苦しくて、悪夢見たヨ。散々うなされて起きたら定春…カッチコッチになってたアル」
ぐすっと涙を流す神楽。
「「『(泣けばいいのか笑えばいいのかわかんないんだけど……)』」」
リアクションに困る私らだった。
「あれから私、動物に触れるの自ら禁じたネ。力のコントロール下手な私じゃ、みんな不幸にしてしまう。でも、この定春なら私とでもつり合いがとれるかもしれない…コレ、神様のプレゼントアルきっと…」
…ふーん……。
「あ、酢昆布きれてるの忘れてたネ。ちょっと買ってくるヨ」
え。
「定春のことヨロシクアル」
「オイちょっと、まっ…」
私らは背後に嫌な気配を感じた。振り返ればやはりそこには定春が。
「「『ぎゃああああ』」」
私らは追いかけてくる定春から死に物狂いで逃げる。ただ、逃げ出した場所が悪かった。
ーーーーキイイイイ.
ーーーードカン.
道路へと逃げ出した私らは丁度やってきた車に引かれた。
「じいィィィィィ!!なんということをををを!!」
「落ちつきなされ皇子!!とりあえず私めがタイムマシンを探してくるので!」
「じいぃぃぃぃぃ!!お前が落ちつけェェ!!」
アリ?この声はいつぞやのバカ皇子?
「ん?こっ…これは、なんということだ」
「どうされた皇子、タイムマシンが見つかりましたか」
「ちげェェェェクソジジイ!!これを見よ!!」
ちょ、何々?
「これは…狛神!?なぜこのような珍種が…」
「じぃ、縄はあるか!?」
は?縄?
むくりと起きあがるが、バカ皇子どもは気づきゃしない。人轢いといてなんだその態度。しかも奴ら定春を車にくくりつけやがった。
「こんなことしていいんですか皇子?私らただのチンピラですな」
「これは保護だ。こんな貴重な生物を野放しにはできん!ゆくぞ。クククク。またコレクションが増えちゃった」
あろうことかバカ皇子共は私らを置いて去っていきやがった。…が、私らがそれを許す訳がない。
「これでペスを失った傷も癒えるというもの。のうじぃ?」
「左様で…!!ギャアアアアアアア!!ゾンビだァァァァ!!」
フロントガラスにはっついた私と銀ちゃんを見てお付きのじぃが叫んだ。誰のせいでゾンビだっての。
私らはこいつらが去っていく前にギリギリで車に飛び乗ったのだ。慰謝労ふんだくろうという考えもあったが、何より、アイツが気に入ってるから…。
「オーイ。車止めろボケ」
フロントガラスを叩きながら銀ちゃんがだるそーに言う。
「こいつは勘弁したってくれや。アイツ、相当気に入ってるみてーなんだ」
『ペットならその辺のペットショップで買ってよ頼むから』
「何を、訳のわからんことを。どけェ!!前見えねーんだよチクショウ」
「うオオオオオオ!!」
…え゛。
「定春返せェェェェェ!!」
あれは…神楽!?猛スピードで神楽がこっちに向かって走ってきていた。
「ほァちゃアアアア!!」
神楽は勢いそのままに傘で車を池にふっとばしやがった。しかしそのすぐ後、神楽は膝をついて泣き出した。定春がまた一号みたいなことになってしまったと、泣いてるんだろうけど、その心配はないよ。
「『お嬢さん』」
「!」
「何がそんなに悲しいんだィ」
ーーーーガリ.
「ぎぃやぁぁぁぁ!!
「銀ちゃん架珠定春!!」
木に座って上から神楽に話しかければ、私らの隣にいた定春を見て嬉しそうに笑った。銀ちゃんは手を噛まれていたけど。
「定春ゥゥゥ!!よかった、ホントよかったヨ!!」
定春に抱きついた神楽は腕を噛まれていたがホントに嬉しそうだ。
「銀ちゃん。二人とも飼うの反対してたのになんで」
踵を返すと私らは歩き出した。
「俺ァしらねーよ。面倒見んならてめーで見な。オメーの給料からそいつのエサ代、キッチリ引いとくからな」
ひらひらと後ろ手に手をふる私。
「…アリガト銀ちゃん。給料なんてもらったことないけど」
「…もう地球に来んの止めよう…」
池に沈んだ車の上でバカ皇子はそう呟いたとか。
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