粘り強さとしつこさは紙一重
「よかったじゃねーか。嫁のもらい手があってよォ」
新八に呼ばれでにぃずへと来た私ら。なんでもお妙が働くお店に来てた客に結婚申し込まれ、断ったがその後ストーカーにあっているとか。
『帯刀してたってことは、幕臣かなんか?』
「玉の輿じゃねーか。本性がバレないうちに籍入れとけ、籍」
「それ、どーゆー意味」
お妙はテーブルへと足を乗せ銀ちゃんの頭をつかむと、パフェへとグラスが割れるほど叩きつけた。ああ、もったいない。
「最初はね、そのうち諦めるだろうと思ってたりして気にしてなかったんだけど……気がついたら、どこに行ってもあの男の姿があることに気づいて、ああ、異常だって」
「ハイ、あと30秒」
「ハイハイ、ラストスパート。噛まないで飲みこめ神楽」
『アンタならいけるって私ら信じてるからね』
「裏切んなよ神楽、頼むぞ。金持ってきてねーんだから」
「きーてんのアンタら!!」
食事代無料にくいついた私らはジャンボラーメンを神楽に挑戦させた。そっちの方に夢中になっていた私らに新八は流石というか、ツッコんできた。仕方なく、私らは新八たちへと向き直る。
「んだよ。俺にどーしろっての。仕事の依頼なら出すもん出してもらわにゃ」
『そーそ。新八、アンタ金持ってんの?』
「銀さん架珠さん。僕もう2か月給料もらってないんスけど。出るとこ出てもいいんですよ」
「ストーカーめェェ!!どこだァァァァ!!成敗してくれるわっ!!」
『隠れてないで出てきやがれェェ!!』
「扱いやすいね」
「なんだァァァ!!やれるものならやってみろ!!」
「ホントにいたよ」
テーブルの下から出てきたのはゴリラみたいな男。コイツがストーカーですか。
「ストーカーと呼ばれて出てくるとはバカな野郎だ」
『己がストーカーであることを認めたの?』
「人は皆、愛を求め追い続けるストーカーよ」
うまくねェよ。
私はゴリラが銀ちゃんに何者かときいている時、お妙に耳打ちした。
「一体どーゆー関係だ。羨ましいこと山の如しだ」
「許嫁ですぅ」
銀ちゃんの隣に行き腕を組んだお妙。
「私、この人と春に結婚するの」
目を瞬かせた銀ちゃんが振り向く。
「そーなの?」
『そーなんだよ』
「そーなのか」
「そーなのよ。もう、あんな事もこんな事もしちゃってるんです。だから私のことは諦めて」
「あ…あんな事もこんな事もそんな事もだとォォォォォォ!!」
「いや、そんな事はしてないですよ」
笑顔で言ったお妙に血走った目をしたゴリラが叫ぶ。
「いやっ!!いいんだお妙さん!!君がどんな人生を歩んでいようと、俺はありのままの君を受けとめるよ。君がケツ毛ごと俺を愛してくれたように」
「愛してねーよ」
ここまで言われてなんで諦めないの?あれか。嫌よ嫌よも好きのうち、的なやつとでも思ってるのか?いやしかしこんなにも全身で嫌悪を表しているというのに…。
「オイ、白髪パーマ!!お前がお妙さんの許嫁だろーと関係ない!!お前なんかより俺の方お妙さんを愛してる!!」
…なんか変な方向に行きそうな予感。
「決闘しろ!!お妙さんをかけて!!」
あ、いった。
『…ごめん』
うげえ。と顔をしかめて目だけで責める銀ちゃんに大人しく謝った。
うん。マジでごめんね銀ちゃん。
*
決闘、ということで川原で決着をつけることになり、私らは橋の上から観戦することに。
『悪かったねお妙。余計な嘘つかせなきゃよかったよ。なんだかかえって面倒な状況に…』
「いいんですよ。でも、あの人多分強い…決闘を前にあの落ち着きぶりは、何度も死線をくぐり抜けてきた証拠よ」
確かに。だてに刀持ってないってことか。
「心配いらないヨ。銀ちゃんピンチの時は、私の傘が火を吹くネ」
「なんなのこの娘は」
『気にしなくていいから』
「おいっ!!アイツはどーした!?」
「あー。なんか厠いってくるって言ってました」
数分後。
「来たっ!!遅いぞ、大の方か!!」
「ヒーローが大なんてするわけねーだろ。糖の方だ」
「糖尿に侵されたヒーローなんてきいたことねーよ!!」
そんなカッコ悪いヒーローヤだよ。夢も希望も何もないじゃん。
「得物はどーする?真剣が使いたければ貸すぞ。お前の好きにしろ」
「俺ァ、コイツで充分だ。このまま闘ろうや」
木刀を手に取る銀ちゃん。
「なめてるのか貴様」
「ワリーが人の人生賭けて勝負できる程大層な人間じゃないんでね。代わりと言っちゃ何だが、俺の命を賭けよう。お妙の代わりに俺の命を賭ける。てめーが勝ってもお妙はお前のモンにはならねーが、邪魔な俺は消える。後は口説くなりなんなり好きにすりゃいい。勿論、俺が勝ったらお妙からは手ェ引いてもらう」
まあ、つまりは結局勝っても負けてもお妙には危害が及ばないわけだ。
「ちょっ、止めなさい!!銀さん!!」
気づいたお妙が身を乗り出して叫ぶ。
『大丈夫だよお妙』
「えっ…」
困惑した表情のお妙。まあ、今にわかる。
「クク…」
「?」
「い〜男だな、お前。お妙さんがほれるはずだ。いや…女子よりも男にもてる男と見た」
確かに銀ちゃん可哀想なくらいモテないよね。
「小僧。お前の木刀を貸せ」
「?」
自身が持っていた刀を地面へと落とすと、新八から木刀を借りようとしたゴリラ。だがその前に銀ちゃんがゴリラに木刀を投げた。
「てめーもいい男じゃねーか。使えよ。俺の自慢の愛刀だ」
「銀さん」
新八が投げると銀ちゃんはそれを見ずに手にとる。
「勝っても負けてもお互い遺恨はなさそーだな」
「ああ。純粋に男として勝負しよう」
ウンウン。純粋ニネ。
「いざ!!」
「尋常に」
ーーーー勝負!!
「あれ?」
勢いよく進んでいたゴリラの動きが止まった。
「あれェェェェェェ!?ちょっと待て先っちょが…」
狼狽えているゴリラを銀ちゃんは容赦なく…。
「ねェェェェェェェェェェェェェェ!!」
木刀で殴り飛ばした。ホント、容赦ないよね銀ちゃん。
「甘ェ…天津甘栗より甘ェ。敵から得物借りるなんざよォ〜。厠で削っといた。ブン回しただけで折れるぐらいにな」
「貴様ァ。そこまでやるか!」
「こんなことのために誰かが何かを失うのはバカげてるぜ。全て丸くおさめるにゃ、コイツが一番だろ」
うっわ〜。メッチャ憎たらしいイヤミな顔。
「コレ…丸いか?…」
ゴリラは力尽きたようでガク、と気絶してしまった。ドンマイ、ゴリラ。
「よォ〜。どうだいこの鮮やかな手ぐ…ちゃぶァ!!」
ーーーードゴ.
新八と神楽は銀ちゃんへと飛び降りた。ていうか蹴りつけた。落下速度も重なって結構な威力だろう。
「あんなことまでして勝って嬉しいんですか、この卑怯者!!」
「見損なったヨ!!侍の風上にも置けないネ!!」
「お前姉ちゃん護ってやったのにそりゃないんじゃないの!!」
足蹴にする新八とボディブローをかける神楽。こっちもこっちで容赦ねェな。
「もう帰る。二度と私の前に現れないで」
「しばらく休暇もらいます」
そう言って去っていく二人。残念銀ちゃん。お子ちゃまにはわかってもらえなかったね。
「フフ…」
隣で笑っていたお妙。
『さすがお妙はわかってんね』
「だてにギャバ嬢していませんから」
そういやそーだったな。
「架珠さん。銀さんにお礼言っといてもらえませんか?」
『はいはーい』
一礼して去っていくお妙を軽く手を振り見送る。河原へと視線を向けると、物理的攻撃を散々受けた銀ちゃんはゴリラと仲良く寝ていた。
『銀ちゃーん。生きてるー?』
橋の上から声をかければ、ゾンビのようにむくりと起き上がった。
「…なんでこんなに惨めな気分?」
『雨降って地固まるだよ』
「違くね?大体てめーが変な事吹き込むから…」
ブツブツ言いながら帰り始めた銀ちゃんには功労賞をあげよう。別に景品はないけどね。
next.
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