誘拐される02

「ねえ才蔵、最近満時殿見ないけど、どうしたの」
「・・・あ、」

そういえばそんな話を幸村とした覚えのある才蔵は、はてさてそれは何日前の事であったかと頭を捻って、流石に顔を青ざめさせた。

「…ここ数日で、見たか?」
「いや?でも才蔵も旦那も何にも言わないから何か用事なのかと思ってたんだけど。・・・何なのその顔、」

まさか、と佐助が呟くのと同時、

「満時がもう5日も居ない・・・」
「はあ?!どこ行ったか知らないの?!」
「…3日前には一度怪しんだのだが、」

忙しくて忘れていた、と一番の友に言わしめてしまった武田の大事な参謀殿は、悲しい哉、誰も気づかぬうちに行方不明となっていた。





何でこんなに経つまで誰も気が付かなかったわけと、珍しく真田忍隊の長の威厳を発揮して叱る佐助。彼に言われなければ後3日は気が付かなかっただろうとは才蔵の心中の。やはりこの男、満時をかなり気にしていると分かって少し笑ってしまった(勿論何笑ってるのとさらに怒られた)。

「取り敢えず満時殿の目撃情報をあらって何処まで行方が掴めるか、分かった?」
「了」

放たれた真田忍はやはり精鋭様々、その日のうちに集まった情報では5日程前に少し城下を外れたところの農民が野原の方へ歩いて行くのを見たとの事で。けれどその野原を広い中も手当たり次第に探し回ったが痕跡と言えるかどうか、幾つかの取り留めのない物が見つかっただけだった。

「これじゃあ分からぬな」
「そりゃ気持ちの良さそうな野原だったし、他の人の落し物も多いだろうしねえ」
「才蔵に見せたらわかるかなあ」
「あ、長だ」

幸村の面倒事から戻ってきた佐助が、どうだったのと報告を聞きながら床に広げられたその取得物達を眺めるに、あ、とひとつ声を発してその中から髪紐を手に取った。

「これ、満時殿のじゃない?」
「「「え、」」」

何で分かるのとは真田忍一同の心中の、けれどその特異さに気が付かない長はなぜ分からないのかと事も無げに話し出す。

「ほら、腕に括ってる予備のやつ」

戦で切れてもいいように、いつもつけてるでしょ、とは此処へ居る誰も知らぬ事実の。

「あ、才蔵」
「手掛かりあったのか・・・ああ、満時の髪紐だな」
「「「はあ、」」」

やっぱりそうなんだ…、と忍隊一同が顔を揃えて佐助を振り返ればだからそう言ってるじゃんと彼は首を傾げていた。

(長、やっぱり満時殿のこと嫌いなんかじゃないよね)
(嫌よ嫌よも好きのうちってか)
(だって見過ぎだもん、いつも見てるもん)
(え、そうなの?)
(満時殿見かけてないの、長が痺れ切らして才蔵に聞きに行って発覚したんだよ今回の)
(うわ、本気マジだ)

「ねえお前達・・・聞こえてるからね」
「「「ひっ!」」」

忍の良い耳の、しかも取り分け優秀な長に聞こえぬコソコソ話などある訳が無く。

「…これは本格的に何かあったみたいだ。大将に知らせてくるから、お前らは他所を探って来な」
「「「え、」」」
「・・・いいから行け」
「「「承知っ、」」」
「才蔵は越後行ってきて」
「承知した」

背に般若を背負った長に逆らえる真田忍など居ないのだった。



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