「何、越後では無かったのか」
「はい、軍神殿も何も知らぬとの事で、満の事をそれは心配されていました」
軒猿も使ってくれと、北の方は探ってくださるとの事。越後のつるぎは自分でも探ってみるとの事でした。報告に上がった才蔵に肩を落とすは信玄だけでは無く、一緒に聞いていた幸村と佐助も同じだった。大方また軍神がと、高を括っていたところがあったのにそうではないとは。
「あとは見当がつかぬな・・・」
小さく零した信玄の呟きに、同意した一同は眉を顰めた。彼の他に軍師のおらぬ武田ではないが、やはり彼の人が居なくばと思うし、何より彼を大切に思うからこそ。
「だんな、」
「ああ、行って参れ」
分かっていると頷く幸村に、居ても立っても居られない佐助はその場を辞した。
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その頃、西の豊臣の地、佐和山城という石田三成の本拠地の。そんなところに連れられて来ていたとは未だ満時は知らないのだが。
「良い山城だなあ」
「ヒヒッ。そうであろ、そうであろ」
そんな彼は武田勢に必死に探されているとはいざ知らず、いや、知っているかもしれないが呑気にも、吉継に連れられて城を眺めて回っていた。建物の造りもさる事ながら、その山に入り組んだ構造も素晴らしく、これは攻め落とすには屹度難儀する事だろうと満時はうんうんと頷いている。
「でもいいのか?俺なんかにこんなに見せて」
何処に何があるかもう覚えちゃったけど、と#namegが尋ねると、ふよふよと浮かびながら吉継はまた笑った。引き笑いは彼の常であるらしい。
「ヒヒッ、別に困らぬ。物の置き場などまた変わるユエ、気にせず見やれ」
定期的に場所を移動させたり、新しいものを建てたりしてその難解さを増しているらしい佐和山は、成る程この摩訶不思議な頭のキレそうな男がやりそうな事であった。いまの時代、忍が入らぬ城など無いし。
「そっかそっか、じゃあ沢山勉強出来るなあ」
のほほんとそう言って佐和山を撫でて上ってくる風に気持ちの良さそうに眼を細め、満時はグッとひとつ伸びをした。
「それで、俺を連れてきた彼はどこ?」
「ああ、三成なら今、賢人へ面通しの許可を願いに行っている」
「みつなりくん、ね」
みつなり、みつなり、そんな武将いたかなあ、何処だったかなあと、謎解きでもするように唸っている満時を横目に、ほんに可笑しな男よと吉継は含み笑っていた。
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「半兵衛様、献上したい者があるのですが、」
「…ん?三成君の事はもう充分すぎるほど信用しているし、そんな物は必要ないんだよ?」
「いえ、兼ねてから半兵衛様が欲しがられていた者が手に入りました故に」
「おや、そうなのかい?では有難く頂戴しようかな」
「はい!では明日早速持って参ります!」
「うん、楽しみにしているよ」
そんな、少し、ほんの少しだけズレた会話が、大阪で行われているとも知らず。