真田忍の長殿は、04

「・・・何なの、あれ」
「何もなにもない、見た通りだ」

謙信様は満時にご執心なんだ。ポッと頬を染めてそう言う彼女こそ、その謙信公にご執心の筈ではなかったのか?

「美しいものが美しいものと居ることを見るのは僥倖だろう。私は別に、謙信様と添い遂げたい訳ではないからな」

それは屹度、敬愛に似た羨望であるのだろう。軍神はどこまでいっても軍神なのだと。

「残念ながら満時はその気は無いようだが」
「そうかな、充分その気なんじゃないの、あんなに頬染めちゃってさ」

先程の、照れの混じった甘ったるい微笑みを思い出して佐助はチッと舌打ちを零した。

「謙信様ほどの美しい御顔が近づいたら誰でも赤面するに決まっている!」

どこに力んでんだとツッコミたくなる勢いのかすがに、へぇとだけ返しておいた。





「なんであんなの放っておいてるんですか大将、」
「佐助か」

宴もたけなわ、主役も室に下がったところ(しかも満時の案内で)(襲われてもしらない)で我らが御館様のななめ後ろにするりと降り立つ。

「面白いであろうに」

謙信も本気では無い、満時は揶揄うと殊更愛らしいでのうと、軍神にちょっかいを出される満時と、彼に貢がれる良酒とをまるっと楽しんでいるらしい信玄に佐助ははぁと溜息を吐いた。

「面白くないか」
「いえ、」
「お主は満時に殊更厳しい」
「そんなことは…」

と言いながらも、あるかもしれない、と心の内で呟いた。彼の人に、常ではありえない、持っていないと言い荒ぶ感情を、波立たされている自覚が。

「いい加減素直になれば良いものを」
「……何のことだか」

鼻で笑う虎は楽し気で、その何をもを見抜く瞳が今は煩わしさも一入の。

「うかうかしていると本当に手を出されるぞ」

それこそ、見当もつかない方向からと、愉快そうに去って行く虎の背を佐助は見えないのだからと忌々し気に見送った。



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