真田忍の長殿は、03

対織田の為、一時的に共闘する事となった武田と上杉。今晩はその調整の為に訪れていた上杉一同を持て成す為、甲斐の虎、武田信玄により盛大な宴が開かれていた。

「かすが、かすが殿」
「満時っ!」

宴の途中、満時がこそこそと部屋を辞したと思えば何やら自室より持ち出して、天井裏に声をかけて呼び出したのはいつもの男では無く本日の宴の主役の清廉たる剣であった。

「これ、宜しければお二人で。何時も色々と頂いてばかりだから」
「あれは謙信様が好きでやっていることだからな。私もお前に会えるから嬉しいが・・・これは?」

何故、満時がかすがを?とか、かすがが緩んだ表情を見せるなんて珍しいとか、と天井裏から覗き見ながらその逢瀬を訝し気に見物しているのは佐助である。

「去年採れた山葡萄を漬けた果実酒なんだ。中々良い塩梅になったから、是非」
「今年は山葡萄か!昨年の梅も美味かったからな。有難く頂戴する」

謙信様もさぞお喜びになることだろう、と微笑みまで見せるかすがと満時は大層仲の良さげな様子で、端々に出てくる上杉謙信の名にもしや満時は上杉の間者なのでは?という疑念が湧いてくる。というか、これはそれの現行犯と言ってもおかしくは無い現場なのではないか?

「こんなものしか差し上げられなくて申し訳ないが、」
「"こんなもの"では無い。お前から受け取る物はいつも心が篭っていて良い物だと謙信様も仰せだ」

そう言って貰えると嬉しい、と笑う満時は歳に似合わず可愛らしい顔をしていて、歳下の筈のかすが(しかもかすがは女子だ)に頭を撫でられる光景にも違和感がとんと無い。

「、・・・それより満時、宴へ戻って謙信様に酌をしてやってくれないか?最近顔を合わせていないからと武田に来る前にも仰っていた」
「ああ、そうだな。最近使者の用事も少ないから・・・じゃあまた、かすが」

とすとすと小さな足音を立てて広間へ満時が戻るのと同時、居るのだろう、と声をかけられて佐助はかすがのすぐ横に降り立った。

「・・・間者との密会を見られて、なんでそんな堂々としてるわけ」

いつもの尊大な態度なままの彼女へ、どうしてだかムッとする腹の底を隠しもせずに問いかければ、帰ってきたのはいつもツンツンとしている彼女には珍しい間抜け面だった。

「・・・お前、知らないのか?」
「何が」

腕を組んで近くの柱に凭れながら苛立ちを隠さず問えば、ポカンとした表情は忽ち眉根を寄せて。

「あの満時が武田を裏切るような事をする筈無いだろう!!!いいから上杉に来いと私は何度も言っているが、満時がそれに頷いたことなどない!それにこの事は甲斐の虎も知っている」

満時が可哀想だと言うその昔馴染みに、何故だかイラつきが止まらない。

「そんな出鱈目言って誤魔化そうなんて、」
「出鱈目ではない!疑うのであれば今から宴会場を見てくればいいだろう!」

甲斐の虎の隣で満時の酌を受ける謙信様が見られるだろうから、と天井裏に消えたかすがを追って、広間の上へと戻った。





「謙信公、ご無沙汰致しまして申し訳ありません」
「ひさしぶりですねみつとき。けんしょうなようす、なによりです」
「はい。謙信公もお元気そうで」

すぐ隣で御酌をしながら微笑む満時に向けられる謙信の瞳は、彼がかすがを見るときのような柔らかさを纏っていて何だその睦まじい様子はと、佐助はギリリと歯噛みする。

「ほんにそなたはあいらしい。かいのとら、せっかくどうめいしたのですから、かれをうえすぎへいただきたく」

謙信の台詞に恥ずかしそうに頬を染めて彼に撫でられるまま大人しくしている満時が憎らしい。佐助の横では、ああっ、謙信様が満時に手をっ、とかすがが悶えていた。

「謙信、何度も言うようじゃがのう、満時はダメじゃ」
「ふふふ、それはざんねんです」

信玄に呆れたように窘められれば簡単に引き下がった謙信は、そのやり取りすらも楽しいようでそれが何度も行われてきた事なのだと初めて目にした佐助にも容易に解った。

「もう、すぐ謙信公はそういうことを・・・」
「ふふふ…まんにひとつでもかいのとらがゆるしてくれればぎょうこうですから」

物は試しですと、さわさわと満時の頭やら頬やら耳やらを撫でる謙信のその手つきは妖し気で、

「ンっ、くすぐったいです、」
「・・・みつとき、やはりわたしのものに…」
「謙信、やり過ぎじゃ」

少し回りが見えなくなっていたのか口説くようなその仕草に信玄の止めが入り、すみません、と謙信が我に返ってやっと満時は解放された。

20170417修正



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -