お昼寝の場所

最近見つけた絶好の昼寝場所。
静かで、陽当たりが良く暖かく、居心地も良いその場所は半兵衛の最近の気に入りである。寧ろなぜ今までそこに気がつかなかったのかと過去の自分に問いたいくらいにはその場所は絶妙であった。

「・・・なんでお前が此処で寝てるかは分かったけれど、それが此処で寝て良い事の言い訳にはならないだろう」
「ええ?そうかなあ。じゅーぶん、俺が此処にいる理由になると思うんだけどな〜」

書を綴りながらチラリと横目で半兵衛の事を見る彼女は、心底呆れたような反応を示してからまた執務に戻る。はあ、と一つ溜息を吐いて、けれど次に出てくる言葉はたぶん、

「まあ別に、私は構わないのだけれど」
「さっすが秀吉様!分かってますね〜〜」
「こんな時ばかり敬語を使うな」
「へへ」

身内に甘く優しい秀吉。許してくれるのを知っていて此処へ来ている半兵衛は、にやにやと頬が緩むのを止められなかった。戦上で見掛ければ大きく頼りになる彼女の背中も、此処で見れば細く、小さい。当たり前だ、彼女は女なのだから。けれど並みの男より身体の小さな半兵衛と同じくらいのその背で、沢山のものを背負っている。凛と佇み、数多を更に背負いこもうとするその気概に、半兵衛は惚れたのだ。この君主の心根に、心底惚れ込んでいる。

「・・・半兵衛、そこは寝にくくないのか」
「んーん、大丈夫」

彼女の背中に擦り寄って、ほこほこと温かなひとの温もりに触れる。今はこれを、独り占めなのだ。

「こちらの方が、寝やすいだろう」
「え?・・・うわっ!」

ぐい、と腕を引かれて、頭の下に丁度良い柔らかさ。横たわる身体に、見下ろす彼女が甘く微笑んでいた。

「ふふ。半兵衛、頬が紅いよ」
「〜ッ、秀吉様が悪いッ!!」

嗚呼もう、どうして彼女はこうも。両手で顔を覆ってもだもだしている間に、彼女の視線は執務に戻ってしまった。下からそっと見上げるようにして、あの甘さをもう一度なんて、馬鹿げていると思うのに。

「ほら、すこしおやすみ」

そんな半兵衛を分かっているかのように、再び蕩ける視線が此方を捉える。左手が降りてきて、その細い指は半兵衛の髪を梳くようにしてから目元を覆った。

「・・・秀吉様は、ずるい」
「大事な軍師様を労うのも、私の仕事のひとつだからね」
「そんなこと言われたら、おれ、働かざるを得ないじゃん・・・」
「ふふ・・・休憩が終わったら頼むよ」
「ええー・・・」

とろとろと微睡みながら言葉を返す。心地よい温かさと、優しく触れる指先に誘われるように夢幻に落ちるのは、悪くなかった。

「・・・おれ、しぬときもこうやって死にたいな、」
「お望みとあらば、ずっと先にあるその時には、私の膝を貸そう。それまでは長生きしておくれ」
「う、ん・・・」



眠ってしまった半兵衛の髪を梳きながら、ひとつ溜息を零す。本当は体調の悪い日などはゆっくりと養生していて欲しいのだけれど、室で褥に籠っているのは如何にもなようで嫌なのだと。身体が悪いのすら、一部にしか漏らしたくないからと。無理をする身が、これで少しは休まれば良いのだけれど。

「お前が居てこその私の軍なのだから、頼むから、長生きしておくれよ・・・」

こればかりは神にをも縋る。
お願いだから、私の大切なものを奪っていってくれるなよ。



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