こんな豊臣軍02

「三成」
「・・・秀吉さま」

日が沈み、帳が落ちれば気温はグッと低くなる。まだ羽織が手放せない夕刻に、暖をとるものも用意せずに只管執務に励む背中に声を掛けた。三成が寝る間も惜しんで筆をとるのは、往々にして何か嫌なことや辛いことがあった時。その感情に胸をいっぱいにされるのを恐れて、気を紛らわせる為に仕事に没頭しようとするのだ。何時も、結局出来ていないのだけれど。

「お前は何時も言葉が足りない。相手に推し量って貰おうとするのは甘えだと私は思うよ」
「っ、」

すぐ傍に膝をついて、筆を取り上げる。悔しげに俯く頭を引き寄せて、胸の中に閉じ込めた。

「ひ、秀吉様っ、」
「甘えて良い相手と、そうでは無い相手が居る。私やねねや、それからこれから出来るであろうお前を理解してくれる人達・・・そういう前では幾らでも甘えて良いけれど、それ以外にはきちんと言葉で思いを伝えなければな」

清正はお前に対する理解があるが、感情的になればそれも後手につく。お前も清正も正則もまだ未熟だからな。少しずつ、出来るようになっていけば良い。
そう言って己に似た茶髪をくしゃりと撫ぜた。じわじわと湿って温かくなる胸に苦笑して、暫くそのままにさせてやる。指通りの良い髪を梳きながら、彼女は三成が捌いた書簡に目を通していた。





「秀吉さま、」
「清正か。ねねにこってり絞られたか?」

三成の室から出ると、直ぐそこには銀髪の大きな男が立っていた。バツが悪そうに顔を顰め、少し疲れた様子にくすりと笑う。羽柴の母のお説教はキツいのだ。誰も受けたくはない。ねね大好きでねねコンな清正すらこうなのだから、その威力はある程度察して欲しい。

「正則と三成の間に立つお前には苦労をかけるな」

ガシガシと己より高い位置にある頭を両手でかき回す。慌てたように、けれどされるがままの清正に笑みが溢れた。うちの子達はみんな優しく、家族思いだからこそ、時にはぶつかる時もある。それがいつか、取り返しのつかない事にならない為にも、しっかりと向き合って信頼関係を築いていって欲しい。

「・・・三成、まだ怒っていますか」
「いや、あいつももう反省しているさ。清正は優しいな」

ぐい、と身体を引き寄せて、抱き締めたかったのだけれど。すっかり大きくなった身体は、腕に力収まりきらずにこれでは自分の方が抱き締められているようで。

「ふふ・・・いつの間にか本当に大きくなった。これでは私がお前に抱き締められているように見えるな」
「なっ、な・・・!秀吉様!!」

顔を真っ赤に染めて俄然慌てだしてしまった彼を離してやり、くすくすと笑いながらその背中を押した。

「ほら、いっておいで」
「・・・・はい、」

憮然とした顔で三成の室の襖を開ける清正を見送り、さてあともう一人と足を動かした。





「正則」
「げぇ!叔母上・・・もう説教は勘弁ッスよー」

足軽達とガヤガヤとやっていたところを見つけて声を掛けるとあからさまに嫌そうな顔をする正則は、それでも秀吉が説教をしに来た訳ではないことを何となくわかっている。

「お前はもう分かってるだろうから、何も言わないよ。さっさと三成と仲直りしておいで」
「・・・頭デッカチが謝らねぇのに?」
「お前が謝れば三成も謝るさ。清正はもう仲直りに行ったぞ?」
「なっ、マジかよ!やっべぇ!」

そう言うと下がっていた足軽達にちょっと行ってくると声をかけ、バタバタと大きな足音を立てて正則は行ってしまった。本当は正則も抱き締めたかったのだけれど、猪突猛進の彼を止めては興醒めだろう。

「全く・・・本当に手の掛かる三馬鹿だな」
「ほんとにね。・・・でも、仲直りしたらみんな纏めていい子いい子しなきゃだね」
「ふふ。頼んだよ母さん」

スッと横に降りて来たねねに小さく笑って返す。いつもと同じ、今日も羽柴の家は平和である。



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