04

幸村からその提案があったのは、彼の告白を断った時だった。

彼が、私を想ってくれているのは分かっていた。もう一度はじめた今生で、かつての想い人が自分を覚えていない・・・この世に居るのに、居ない。そんな辛さを、傍に居て埋めてくれたのは彼だったから。



転校してきて、この学校にいる前世で関わりのあった人間の多いことに驚いた。
元親と元就なんかは、初日にクラスのみんなの前で挨拶した途端にガタッと席から立ち上がってしまって。驚愕を浮かべる瞳に、彼らも覚えているのだと直ぐに分かった。嬉しくて嬉しくて表情を緩めれば、元就は瞳を優しげに細めて、元親は半泣きになっていた。

次に再会したのは幸村で。
お館様から聞いたのか、私の教室に駆けつけた彼は、顔を見せるなり抱き付いてきて、暫く噂になってしまったほど。前の時から相変わらず初心らしい幸村は、今生でも変わらず純情で、女の子と話すのは滅法苦手、近寄ることすら難しいと評判であったらしい。そんな彼の暴挙にみんなは慌てふためき、私に対する噂も数多く囁かれるようになってしまったのだった。

次に再会したのは、右目殿。
私が来ると言うのは知っていたらしい、彼は今生では教師となっていた。(ちなみに、お館様も教師だ。しかも体育)会えてよかったと、言われた時は少し泣きそうになってしまった。そしてこの時彼から伝えられたのは、自分のクラスの生徒には政宗、慶次、そして、

「猿飛も、いる。だが・・・覚えてはいないようだ」
「そう、ですか」

幸村だけが、会いに来た時に何となく気付いていた。彼が覚えているのであれば、あの時に二人で来た筈だろうから。



「ごめん、幸村。わたし、」
「良い、分かっている。お前にとって、佐助の存在がどれ程大きいものなのかは理解している」

幸村の告白は、正直に、嬉しかった。
彼と一緒に居れば、きっと微温湯のような緩い幸せの中に甘んじていられるのだろう。けれど、その度にきっと私は幸村を傷付け続けるのだろうとも、思う。幸村のことも大切に思っている。だからこそ、そんな事だけはしたくなかった。

「千歳、佐助が本当に思い出していないのか、試してみる気はないか」
「?」

こうして、右目殿に協力までしてもらって張った罠に、彼はまんまと引っかかったのだった。



小さな、掠れたような囁きだった。
あれほど聞きたかった声に、心が震える。動き出してしまいそうな身体を抑え込んで、もう少し、もう少し聞いていたいと、彼の声を、私を呼ぶ声を聞いていた。








「三春」

佐助が去った後の教室で、三春はただボーッと虚空を見つめていた。直ぐ横、さっきまで彼が立っていたところから、気遣うような幸村の優しい声がした。

「泣くな、」

言われて初めて気付く、頬を伝う涙を手のひらで拭おうとすれば、それは止められて熱い両手に頬を包まれた。

「ゆきむら、?」

流れる涙を優しく拭われて、目尻に唇を寄せられる。驚いて、流れ続けて止まらなかった涙が止まってしまって、それに幸村は酷く優しい顔をして微笑んだ。

「やっと泣き止んだな」
「幸村・・・」
「三春、俺はお前を愛している」

だからもう、幸せになってしまえ。

そう音もなく紡いだ唇は、一度だけ三春のそれに合わさった。

20170316修正



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