君と君の友人と君の知らない僕と

君以外いらないみたいだのつづき














「あれ・・・三春さん!」
「え、コナンくん?どうしたのこんなところで」

三春はその日、古い家具工房に用があって米花町へ訪れていた。スウェーデンで修行した職人が帰国して開いた工房で、アンティークの修繕の腕がピカイチの上にオリジナルも品も良いという事で、近々彼女の会社でも扱わせて貰えないかと交渉をしに行っていたのだった。

「お家この辺りなんだっけ?」
「そうだよ!帝丹小学校なんだ」
「そっかー。そうだったけ」

たまたま通りがかった公園でコナンとその友人達と出会った三春は、このお姉さん誰?と首を傾ける子供達に笑顔を向けながらしゃがみ込み目線を合わせた。

「こんにちは。私はコナンくんのお友達の降谷三春です」

どうやらこういった大人との出会いには慣れている(たぶんこの妙に大人っぽい少年のせいだろう)ようで、子供達は元気に自己紹介をしてくれた。それを保護者のように見守る小学生らしくない少年に苦笑う。
その20以上も歳の差のある小さな友人と、彼女の付き合いはそこそこ長い。
昔、彼女が居合わせたデパートでたまたま事件があって、犯人は例の通り小さな名探偵と眠りの小五郎の活躍により華麗に解決したのだが、事情聴取の際、職業をすんなりと明かしたがらなかった彼女にコナンが目を付けたのが始まりである。



「お姉さん、"会社員"って何してる人なの?」

急に掛けられた声にぴくりと肩を揺らした三春は、下の方から聞こえたその声にゆっくりと振り返ったあと、周りをキョロキョロと見回してしゃがみ込み、コナンの耳元でこそりと言葉を零した。

「ここのデパートに入ってる家具屋さんを視察に来たの。競合・・・うーん、敵の会社のひとだから、あんまり大っぴらに出来ないんだよね」

だから、しーっね!お願い!小学生にも分かりやすい言葉を選んでくれたのだろう-残念ながらコナンはその言葉の意味が分かるが-そう言ってコナンに会社名の入った名刺と飴玉をくれて、またねと帰って行ったのが初対面の時のこと。その時は、コナンとしても思わず疑ったことを申し訳なく思ったくらいの印象しかなかった。



次に出会ったのは何の変哲も無い街の中、けれどそれは大阪でのこと。見覚えのある姿に暫し頭を悩ませて、そうして思い当たったらどうしてこんなところにと疑問を解決させずにはいられなくなっていて、彼女に声を掛けたのはコナンの方だった。

「あの、諏訪部三春さんですよね?」
「え?・・・あ、あれ?キミ・・・もしかしてこの間のデパートの事件のとき毛利探偵と一緒にいた、」
「うん!コナンって言うんだ!」

くい、と服の裾を引かれて見下ろした先、何だか見覚えのある子供に彼女は首を傾けながら思い出す。声を上げると、嬉しそうに笑顔になった少年に、彼女も笑顔でまた目線を合わせた。

「どうしてこんなところに?ひとり・・・?今日は毛利探偵と一緒じゃないの?」
「あ、今日はね、「誰やこのネーチャン」・・・服部!」

そこへやって来たのはコナンと一緒に謎解きをしていた服部平次で。そういえばコイツ居たんだった、とコナンは思わず表情を歪めた。

「こんにちは。コナンくんの知り合いの諏訪部三春です」
「おお、」

そんなぞんざいな彼にも嫌な顔ひとつせずに丁寧にも名刺を差し出した彼女に、服部がすまんのう、と言いつつそれを受け取る。そして社名に目を止めて、彼女をもう一度見た。

「ネーチャン、もしかして服部静華って知ってるか?」
「・・・もしかして、息子さんです?」
「え、知り合いなの?」

服部の一言に瞳を見開いた彼女にコナンも驚いた声を上げる。何でも、彼女のお得意様だそうで。そもそも、

「さっきお会いしてきたとこ・・・」
「「えええっ!!!」」

世間は狭いというか何というか。そして偶然はそれだけでは終わらなかった。



3度目に出会ったのは、日本ではなく海外だった。

「あれ?」
「あ!!」

なんか見たことある子がいる、と彼女がそちらをじーっと見ていると、気付いたコナンが声を上げて二人で声を揃える。丁度彼女が長い長い出張に出ていた時のことである。彼女はヨーロッパをあっちへこっちへ行った後、中国やトルコや北米にまで足を向けて買い付けをしていたのだから、そんな中で知人と偶然にも出会えたのは奇跡に近かった。思わずテンションが上がってしまっても仕方がないだろう。

「すっごい偶然!何してるの?」
「おじさんの都合で一緒に来たんだ」
「コナンくん、この人は?」
「あ!蘭姉ちゃん、僕の知り合いの諏訪部三春さん」
「こんにちは」

一緒に居た蘭と3人で何となくカフェへ入ったのだが、博識で話すのが上手い彼女と意気投合して、とうとう三度目にして蘭もろとも連絡先を交換しあうことになったのである。



友人と呼べる関係には至ったのだが、まあ、連絡先を交換したとはいえ所詮は大人と子供。偶然会ったりしなければ話すこともないのだけれど、それでも会ってしまえば積もる話もあったりなんかして。子供達には別れを告げて、三春はコナンを家まで送るついでにと毛利探偵事務所のすぐ下の喫茶店に入ることにしたのだった。

「ねえねえ三春さん、苗字、変わった?」
「ははは、流石コナンくん。鋭いね」
「結婚したんだ?」
「そうなの。彼氏と籍を入れました」
「おめでとう!」
「ありがとー」

そんなこんなで話していれば、高校の下校時刻にも差し掛かり、蘭と園子までやって来て話題は家具や海外の話からまた彼女の話に戻る。園子は初対面だったが、とんとん拍子に仲良くなった。

「いいわよね〜結婚って」
「でも三春さん、こんな時間まで出掛けてて大丈夫ですか?旦那さんに怒られませんか?」

話が弾み、辺りはすっかり薄暗くなっていた。心配そうに蘭が時計を確認したあと彼女の方を見る。彼女は確か、米花町に住んでいる訳ではなかったはずだ。

「いま単身赴任中だから大丈夫だよ」
「あ、そうなんですか・・・じゃあ寂しいですね」
「んー・・・あんまり?」

すみません、と言わんばかりだった蘭と園子は瞳を見開いた。新婚さんの筈では?!と彼女のしれっとした顔にコナンも驚愕ものである。

「え、寂しくないの?!」
「嘘ですよね?!」
「なんで?!」

何をそんなに驚くことなのかと、彼女は首を傾けている。

「うん。付き合ってた頃もこんなもんだったし・・・一月連絡が無いのとかザラだったし、たまに帰ってきたかと思えば荷物だけ持ってすぐ出掛けちゃったりすることも「ま、待って!本当に?!」・・・うん?本当だよ」

彼女の話にコナン達は若干どころではなくドン引きである。そんなに会わない夫婦関係なんて、別居中でもない限り有り得て良いのだろうか。滅多に姿を見せない新一ですら頻繁に連絡は寄越すのに。いや、本人らがそれで良いなら良いのだろうけれど・・・

「え、ええ・・・それ、結婚してる意味あるの」
「私だったら無理だわ・・・」
「私も・・・」
「あはは」

理解できない、と表情を歪めるコナン達。そんな若者達に彼女はピッと人差し指を突き立ててレクチャーするのだ。

「でもね、考えてみて。何があっても、彼が帰って来るところは私のところなんだよ?これって凄いことだと思うんだ」

いーい蘭ちゃん、園子ちゃん、コナンくん、と彼女が語る言葉は本心そのものなようで、本当に、それだけがあれば満足だと言わんばかりに。

「・・・三春さん、旦那さんのこと大好きなんですね」
「ふふ。うん、そうだね。だいすき」

そしてあんまり彼女が幸せそうに微笑むから、照れたように頬を染めるのはコナン達の方だった。

「おやま、ガキンチョが一丁前に照れてら」
「そそそんなことないよ!」
「三春さん幸せなんですね〜」
「うん、おかげさまで」

彼女のような心持ちで自分もあれたなら良いのに、と蘭は夢想する。新一が帰って来るのは自分のところ。そういう約束がある訳ではないが、けれどきっと彼は蘭のところへ帰って来るという確信がある。それは幸せな事なのだと、彼女のおかげで改めて認識出来た気がした。

「あ、安室さん!」

カランカラン、と鳴ったベルにふと園子が顔を上げて、入ってきた人物を見て話を中断させて声を上げた。そこへ立っていたのは、褐色肌に金髪が特徴的なイケメンであったからだ。彼女は半ば彼の為に此処へ通っているのだからそのテンションの上がり具合にも納得できる。

「あ、」
「・・・三春さんじゃないですか!どうしてこんなところに?」

そんな園子につられて背後を振り返った三春が、彼を見て小さく声を上げるのと、瞳を僅かに見開いた安室が彼女の名を呼ぶのとはほぼほぼ同時だった。

「あれ?安室さん、三春さんとお知り合いなんですか?」
「ええ!以前、探偵の方でちょっと」

すごい偶然ですね!とはしゃぐ蘭と園子を他所に、コナンは二人の様子に眉根を寄せた。組織の人間かもしれない安室。その男とよもや彼女が面識があるとは。けれど彼女はコナンの目にもどう見ても一般人で、不自然な点など見つからない。先程組織の匂いに敏感な灰原と顔を合わせた時も、彼女は特に何の反応もしていなかった。

「・・・そうそう、私が取引先の社長さんに出された謎々に悩んでたら、声を掛けてくれて」
「謎々?」

難しい顔をして考え事をしていたコナンだったが、その彼女の言葉に興味を持って顔を上げた。

「ちょっとお茶目な社長さんでね、良い職人さんを紹介してあげるって渡されて。でもその謎々が解けないと何処にその人が居るのか分からないようになってて、公園のベンチで困ったなって頭抱えてたの」
「そこに安室さんが現れて!」
「そうそう、何か悩み事ですかって。ね、安室さん」
「そ、うですね・・・」

興奮したように瞳を輝かす園子が話に食いついていく。イケメンの格好良い登場の仕方に妄想が爆発していそうである。それにふわりと微笑んだ彼女が安室を見上げると、彼は少し言葉を途切らせながら頷いた。

「それでサラッと解いてくれてね。その場所も少し交通の便が悪いところだったから、後日連れて行ってくれるってことになって」
「優しい!!」
「そこまでして貰えませんって言ったんだけど、女性が一人でそんな山奥に行くのは危ないからって」

くすくすと彼女は何だかとても楽しげで、安室はその彼女が楽しげなぶん眉根を寄せていた。彼がここまで表情を崩すのは珍しいのではないかとコナンは思った。女子高生二人は盛り上がっていて気付いてなかったけれど。

「安室さん、その節はお世話になりました」
「・・・いえ、お気になさらず」

にっこりと笑う彼女に、安室が苦笑した。いつも笑顔の彼がみせる少し意外な様子に、コナンはこの二人は何なのだろうと少しだけ興味を持ったのだった。



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