東へ進軍してみた01

前田軍に上杉を攻めさせていた豊臣は、大将自らその進軍の前線へと顔を出していた。

「秀吉殿?!」
「やあ、利、まつ。上杉はどうだい?春日山は山城・・・落とすのは大変だろう」

出来るだけ軍を押し返し、籠城近くまで持っていくようにと指示されていた前田軍は、未だ城を取り囲むには至っていなかったものの、かなり近くまで攻め入る事が出来ていた。

「ここまで寄ってくれれば上出来だ。私は軍神に会ってくるから、他の兵はよろしく頼むよ」
「は?!秀吉殿、何を?!」

じゃあね、と駆け出してその慶次の物よりも大振りな大剣でもって自分で自らの進む道を作り出す彼女の姿は、困惑を通り越していっそ痛快であったとか。





「ここから先は通さんぞ」
「おお、噂のつるぎはお前か」

道がなければ作ればいいじゃない、と言わんばかりの所業を地で行く彼女は壊して突き破ってを繰り返しながら、突如目の前に立ち塞がった中々に刺激的な格好の彼女にその紅色の眼を細めた。

「優秀な忍だと聞いている。けれど、私は軍神に用があるんでね」

力づくで行くよと、鈍く光る瞳。これが豊臣秀吉、とかすがが息を呑んだ時、

「おはなしならききましょう、ひでよしどの」
「謙信様ッ!!!」
「出て来てくれるとは有難いね軍神殿」

刃を交える一歩手前、奥から姿を現した軍神の姿に彼女は直ぐにその構えを解いた。警戒したままのかすがは、謙信により下がるよう命ぜられては逆らえなかった。

「くちょうがせんだってとはことなるようですが」
「嗚呼、あれね。この前は我の前に跪け、とか言ったけどさ、あれは口上だから」
「ぐんしどののいこうということですか、」
「まあ、そんなところ。日ノ本で今もっともと言っていいほど力を持った三軍を相手に名乗り上げる訳だったし、私はこの通り、立派な出ではないからね」
「うかがっております」

気安い言葉づかいは先の川中島での尊大な様子とは一線を画すものであり、けれど全くの別人というほどまでに変化している訳では無い。こんな様子であっても、彼女の威風は損なわれる事が無く、軽い口調とは裏腹に全くと言っていいほど隙が無かった。

「私はさ、戦が嫌いなんだ。せっかく農民たちが汗水流して働いて作ったものを、戦は一瞬で駄目にする。町人たちや商人が考えに考え抜いて整えた町もそこの秩序も、一瞬で壊してしまう。それを、私は許せない」

奥に通され、謙信と向かい合っている彼女はかすがに出された茶に疑いもせずに口をつける様は無防備であるようでいて、視線は鈍い光を放っていた。

「だからアンタ達がいつまで経っても小競り合いの戦を続けているのは、少し気に入らなくてね。まあ、場所は農地や町では無い川中島だけどさ。それでも兵は怪我をするし、悪けりゃ死ぬだろうに。だからちょっと痛い目見れば良いという気持ちもあったよ」

私は身内にしか優しくできないタチだからさ。その強い視線に、かすがは息を呑んだ。謙信は彼女をただ黙ってジッと見つめている。

「私がやりたいのはさ、村や町を整えて、民の暮らしを楽にしてやることなんだ。その為には他所からの侵攻に気を張ったりとか、天下統一とか、言っている奴らが居なくならきゃならない」

だからさ、

「別に下ってくれとは言わないよ。ただ、うちと戦はしないで欲しい。あと、できれば一度大坂を見て欲しいね。それで良いところを持って帰って、越後をさらに豊かにしてくれよ」

私も越後の良いところは参考にさせて欲しいね。そう言って笑った彼女は、黙ったままの謙信の傍に控えるかすがに目を向けた。

「私の最終目標は、お前みたいな奴が、やりたくも無い人殺し仕事をやらなくても良くなるようにする事だよ。それまでは屹度まだまだかかるし、本末転倒だがお前達みたいな隠密に頼る事は多々ある。けれどね、屹度そこまで辿り着いてみせるから。それまで申し訳ないが辛抱してくれよ」

そう言って、彼女の視線はここへ来て初めて優しく細められた。そんなものを向けられることに落ち着かない気分になったかすがは、逃げるように視線を彷徨わせて、そしてすぐ傍の謙信が笑った気配に顔を上げた。

「わたくしはどうやら、あなたをおもいちがえていたようです」
「ふふふ、当たり前じゃないか。私は酷い外弁慶なんだ」
「そのようですね」

愉快そうに笑った謙信は、かすがにお茶のお代わりを用意させる。豊臣秀吉の意を理解し、そして協力すると、上杉と豊臣の同盟が成った瞬間だった。

20170316修正



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