赤井さんの思惑

お昼のオムライスは卵をとろとろに作る事に成功したので二人からは絶賛された。チキンライスの鶏胸肉に火を通すのに使ったお湯でスープをつくって付け合わせを用意して、とくるくると動き回っていたのを手際が良いと赤井に褒められたりもした。料理を作る順番と速さは関係していて、なにとなにを同時にとか、これはこれの後でとか、立体的に考えるのは建物を考える作業に似ているのだと話すと、彼は感心したように頷いていた。
赤井はあまり口数の多い方ではないが、きちんと話を聞いてくれている感じがするので言葉がするすると出てきてしまうのが不思議だ。真純はその反対に、よく喋る子である。テレビに飽きたのかこちらにやってきた彼女も話に加わって、手伝ってもらいながら進める調理はとても楽しかった。

「はい、お待ちかねのフォンダンショコラ」
「わ、クリームもついてる!」

本日のありがとうの気持ちを込めて、出来立てのアツアツのフォンダンショコラに、ホイップクリームと冷凍ベリーを煮詰めたソースを添えた。彼女に先日差し入れた時は器のままだったので、こんな風に飾りつけして出てくるのは乙女心を擽ったらしく、とても興奮した様子で写真を撮っていた。

「うわ、チョコがとろーんて、・・・ああもう最高!!千歳さん、お店出せるよ」
「ふふふ、そんなに褒めて貰えると嬉しいなあ」

サクリと生地にナイフを立てれば中から溢れるチョコレート。食べて楽しいフォンダンショコラというお菓子はエンターテイメント性と美味しさを同時に兼ね備えたものであると思う。甘いチョコレートに、甘酸っぱいソースは相性抜群である。

「こういう風に食べると、また違った美味しさだねえ。…贅沢だ」

幸せそうに頬を緩める彼女を眺めていると、こちらも幸せな気持ちになってくる。餌付けじゃないが、こういう風に食べてくれる子にはもっといろいろ作ってあげたくなるので、次は何をつくって喜ばせようかと思案してしまう。お店を出せるよなんて言われたけれど、彼女が食べてくれるからこそ作るのだから、やっぱりお店は出せないと思った。





それから折角真純がセットしてくれたからと、映画のDVDを三人で見た。ほとんど出掛けずに家で過ごす休日はいつものことなのだが、誰かがいるだけでこんなに充実するのだなあと今日一日の満足感に浸っていると、マナーモードにしていた携帯が震えた。
連絡は降谷からで、今日は20時頃には帰れそうなこと、明日は休みになったから一緒に過ごしたいことが書いてあるメールに、頬が緩む。彼の帰る場所になりつつあること、彼と過ごす時間が増えてきたことは千歳にとってとても嬉しいことで、降谷の笑った顔や、気の抜けた表情を見ていると幸福に感じる程度には、彼への好意を自覚していた。それがどういった形の好意かは、まだとんと考えた事が無いのだけれど。

「降谷くんか?」
「・・・はい。今日は帰ってこれるそうです」
「そうか・・・」

嬉しそうに返信を打ち込む千歳の表情を赤井が見逃す筈も無く、尋ねてみれば案の定な相手に今日一日緩まっていた腹の底がまたじくりじくりと動き出す。彼の幸せそうな表情を見ていると諦めなければと思うのに、相手が降谷だというだけで胃の腑が疼く。己も彼の事をだいぶ意識していたようだとは、千歳に出会って初めて知ったことだった。

「じゃあ俺達はこれを見たらお暇しよう」
「そうですか。今度はみんなでご飯食べましょうね」
「そうだな」

今日、この後すぐ彼が来るということであれば、他人のいた気配や、彼一人では決して片付けることの無かったリビングの隅の段ボールや、洗われた複数の食器に気が付くだろう。そうして隠すことを考えないであろう千歳が、誰が居たのかをバラしてしまうことは必然。きっと彼もいまの赤井と同じように腹の底にどす黒いものが戦慄くのだろう。良い気味である。簡単に千歳を手に入れられると思ったら大間違いだということを、知れば良いのだ。



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