"エース"と呼ばれるひと

「日向、影山」

放課後の部活前、3年生の廊下を彷徨いていた。端の教室のほうから名前を呼ばれて振り向くと、諏訪部が顔を出し、手招きしていた。

「諏訪部さん、ちわっす!」
「ちわーす」
「お前らもしかして、エース見に来たの?」

昨日話に出ていたエースが気になって仕方のなかった日向に気がついていたらしい諏訪部が、にやりと口角を持ち上げる。

「旭なら3組だよ」
「!!あざっす!!」

クラスを教えてくれた諏訪部は、そのまま日向と影山の頭を撫で撫でとする。

「俺、お前らのそういうトコ、すごいすき」

ふふ、と笑うその顔が優しくて、なんだか嬉しくなる。隣の影山も大人しく撫でられているのが少し意外でそろりと見上げると、頬を少し染めながらもなんとも言えない複雑な顔をした影山に、見んなバカッ!と言われて背中をど突かれた。



「日向、エースはどうだった?」

部活の途中、休憩でドリンクのボトルを受け取る時に諏訪部からそう聞かれた。

「なんか、デカかったです!!けど、見た目より恐くなくて、優しそうでした!!」
「ふふ、そっか」

また話してやってよ、と言って他の人へボトルを渡しに行った諏訪部は、他の2、3年生のように元気がない、という感じではない。この人はいつもこれくらいのテンションなんだろうな、というのを感じる。
いつもみんなのことをよく見ていて、声をかけたり、上手くいくと褒めてくれたり、頭を撫でてくれたり、上手くいかなかった時は、アドバイスをくれたり、落ち着かせてくれたり。練習後のストレッチの時は特によくみんなの周りを回っていて、混じって交代しながらほぐしてくれたりもする。諏訪部は中学までバレーをやっていて、怪我でやれなくなったのだというのは、以前、田中からこっそりと教えられた。

「マネージャーっていうのはな、コートの外から、俺らと一緒にバレーをやってるんだよ」

そう言った時の田中の表情が誇らしげで、とても印象的だった。

「諏訪部さんって、なんかこう・・・後ろ向いたらいる!みたいな、」
「?、幽霊か?」
「そういうんじゃなくてえ!」

諏訪部を視線で追いながらそんな事を言うと、隣の影山が何を言っているんだと首を傾ける。

「いつも背中に手を添えてくれてる、みたいな?」
「!そんな感じ!です!」

的確な言葉が反対側から聞こえて振り向くと、そこには澤村が立っていた。

「千歳はさ、どんな俺達だって全部見ててくれてるんだよな。そんで、どんな時だって、一番側にいるって言う。距離とかじゃなくて、心で、アイツはずーっと俺達に寄り添い続けてる」

だから、チームがバラバラのこの状態が、一番辛いのは、もしかしたらアイツかもしれないんだよ。
そう言った澤村は少しだけ苦しげで、心配そうに諏訪部を見つめていた。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -