チーム烏野、始動

「っしゃあ〜勝ち〜!」
「お疲れっしたー!」
「みんなナイスナイスー」
「まだまだ高校生には負けらんねーよなあ」
「ヒゲのにーちゃんもナイスだったぜ」



練習試合は、町内会チームが2-0で勝利した。
さて、片付けという時に、コートの外、壁際に立って、声を掛け合う旭達をぼんやりと眺めていた千歳に駆け寄って、澤村は千歳の腕を引いた。

「千歳」
「大地・・・、」

その瞳は今にも溢れそうで、可哀想で、愛しかった。

「おいで」

腕を広げると、そっと近付いて、肩に顔を埋める。遠慮するように距離があるのを、腕を回してぎゅ、と近づけた。

「心配かけたな」
「・・・大地のことは、心配してなかった」
「はは、そっか」

ずず、と鼻を啜る音と一緒に、小さな声が返ってくる。肩が湿り気を増すのに、優越感を感じるのは気のせいではないだろう。いつもこういうのは菅原の仕事だからこそ、こうしてしがみ付かれるのは嬉しかった。

「な、大地なにやってんの・・・!?」
「あーーーっ!!大地さん、ズルいっす!!」

ようやく俺達の様子に気付いた旭がぎょっと目を剥き、菅原が怒ったように声を上げ、西谷が駆け寄る。

「え、千歳、泣いてんの・・・?」

近寄った菅原が千歳の顔を覗き込むが、イヤだと顔を逸らして、額が澤村の首に触れた。宥めるように頭を撫でると、強張る肩の力が抜けたようだった。

「お前らが泣かせたんでしょーが」
「「う"っ」」
「え、そうなんスか?」

呆れたようにそう言えば、自覚のある菅原と旭がギクリと身体を震わせ、自覚のない西谷が首を傾けた。千歳が泣くことは滅多にないので、西谷が分からないのは仕方がないとしても、菅原と旭は重罪である。うちの大事なマネージャーをこんなに苦しめておいて、タダで済むはずがない。

「千歳、ごめんっ!!ごめんな〜!!」
「俺もっ、俺も悪かった!!へなちょこでゴメンナサイ!!」
「ほら!西谷も!!」
「え?すんません!!」

なんだなんだ、と周りにみんなが集まってきてしまっているので、千歳は益々顔を上げられない。けれど菅原や旭の慌てように、涙はもう治まったようだった。

「どうする?千歳」

笑い声まじりに尋ねると、んん、と千歳が身動いだ。

「・・・肉まん全員分」

顔を上げて、ちら、と菅原と旭と視線を合わせてそう言った千歳に、2人はコクコクと高速で頷いた。

「じゃあ、許してあげる」

ふふ、と笑ったその表情が、目尻と鼻先が赤く染まっていて、ちょっと頼りなげで、男相手にアレだが、めちゃくちゃ可愛い。至近距離で見下ろす事が出来るのは中々の眼福である。(あと、ちょっとエロい。)周りが固まっているのが面白くて、澤村は千歳の頬を撫でながら、くすくすと肩を震わせた。

「諏訪部、濡れタオル」
「ん。ありがと清水」

澤村から身体を離した千歳の横に、清水がやってきてタオルを渡し、その頭を撫でる。愛いものを愛でる目をしているのは、清水も澤村と同じであった。

「ハイッ!片付け!!!」

パンパン、と手を叩いて大声を出すと、ハッと現実に帰った面々が慌てて動き出す。煩悩を振り払うように頭を振って慌てて掛けていく者、顔を真っ赤にして千歳から顔を逸らす者、沸騰して動けなくなる者、様々だ。

「「尊い・・・」」

千歳を慰める清水と2人まとめて、拝む者まで・・・その2人には、とりあえずゲンコツをお見舞いしておいて。

漸く揃った烏野フルメンバーに、澤村も安堵の息を吐き出した。これで、憂いはゼロだ。あとは、
  上だけを見て、飛び立つだけだ。



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