到来するは
やばい。
かすむ視界に、唇に歯を立てる。ぬるりとした感触すら、ひどく遠い。
唇を食い破り溢れた血の温度と鉄錆の匂いに、雛香はぎゅっと目を閉じ、かろうじて意識を保っていた。
先ほど肩を抱いた、ツナの腕の温度はもう無い。
「必ずここから脱出する」と告げ離れた、凛とした声はひどく遠いところで聞いた。
「……ち、くしょ……はっ、く、はあ、」
役立たず。
飛び込んだわりに何もできない己に苛立ちは募るが、それよりも体の苦しさに意識が持っていかれるばかりだ。
酸欠もだが、何より身体が熱い。
心臓のあたりからこみ上げる痛みに、雛香はさらに強く唇を噛んだ。ぎゅっと服の上から胸元を掴むが、心臓を圧迫するような痛みはおさまらない。
痛い。くるしい。
息が、できない。このまま、だと。
(……こんな、とこで……死んでたまるか……)
まだ雲雀の馬鹿に何も聞けていない。
ぐっと唇を噛み目を開けた、
瞬間。
〈……へえ、まだ耐えられるんだ。タフだねー〉
突如、暗闇に明るい声が響いた。