君を咬み殺す3 | ナノ




到来するは
 やばい。
 かすむ視界に、唇に歯を立てる。ぬるりとした感触すら、ひどく遠い。
 唇を食い破り溢れた血の温度と鉄錆の匂いに、雛香はぎゅっと目を閉じ、かろうじて意識を保っていた。
 先ほど肩を抱いた、ツナの腕の温度はもう無い。
「必ずここから脱出する」と告げ離れた、凛とした声はひどく遠いところで聞いた。

「……ち、くしょ……はっ、く、はあ、」
 役立たず。
 飛び込んだわりに何もできない己に苛立ちは募るが、それよりも体の苦しさに意識が持っていかれるばかりだ。

 酸欠もだが、何より身体が熱い。
 心臓のあたりからこみ上げる痛みに、雛香はさらに強く唇を噛んだ。ぎゅっと服の上から胸元を掴むが、心臓を圧迫するような痛みはおさまらない。

 痛い。くるしい。
 息が、できない。このまま、だと。

(……こんな、とこで……死んでたまるか……)

 まだ雲雀の馬鹿に何も聞けていない。
 ぐっと唇を噛み目を開けた、

 瞬間。


〈……へえ、まだ耐えられるんだ。タフだねー〉



 突如、暗闇に明るい声が響いた。





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