終わりない交錯を閉じるため
3日。
3日経った、と雛乃は思う。
そう、紛れもなく3日だ。
ちらり、横目でベッドを窺えば、無表情でナイフを磨く雛香の姿。
3日経った。
雲雀が、嘘を明かし雛香の首を絞めあげてから、3日。
あの日、進路を塞いだバリネズミ全てをオルトロスで破壊し、息を切らした雛乃の前に立っていたのは、
意識の無い雛香を草壁に預ける、目を伏せた雲雀の姿だった。
『……雲雀、さん』
『……後は任せたよ』
『何を、したんですか』
『気道を潰したわけじゃない。動脈を塞いだから気を失ってるだけだ、適切な処置を施せばじきに目が覚めるだろう』
『……雲雀さん、』
『怒る気かい?宮野雛乃』
『あなたは、間違っている』
静かに、しかし毅然と言い放った雛乃に、雲雀は一瞬目を見開き、背を向けた。
『……僕は間違いなんて犯さないよ、宮野雛乃』
遠ざかるスーツの背中は、ひどく孤独で。
『……僕は、雛香に近づくべきじゃない』
廊下の奥へ溶けるように消えた後ろ姿に、雛乃は焼けつく胸の痛みを感じた。
***
(雲雀さん……)
間違っている。
雲雀は、間違っているのだ。
本当は雛香を求めているのに、しかし近づかないように、そして近づけないように突き放した。
二度と、失わないために。
唇を噛む。
雲雀のことも不安だったが、それよりも雛香の方が心配だった。
(……雛香……)
突然の嘘、絞められた首。
何を言われたかはわからないが、雲雀が冷たく突き放したのはまちがいない。
だとすれば、兄は相当ショックを受けたはずだ。現にここ3日間、雛香はろくに口をきかない。
(雛香……)
でも、なんと言えば……。
「雛乃」
はっとし、顔を上げる。
ベッドから降りた雛香が、こちらをまっすぐ見据えていた。
いつの間にかナイフはしまわれ、身につけた黒い服の中で、首の包帯だけが白く浮いている。
「……雛香?」
「やっぱこんなんおかしいと、俺は思う」
……は?
予想外、どころかわけのわからない唐突な発言に、雛乃はぽかんとして相手を見返す。
凛とした光を瞳に宿す、兄の姿を。
え?
「……何言って、」
「それに俺は、堂々巡りが嫌いなんだ」
「……はい?」
またも、意味不明な言葉。
我が双子の兄ながら、珍しく全くもってその心情が読めない。
「だから」
「……だ、だから?」
「雲雀を殴りに行ってくる」
「……………え、えぇえ、って、雛香ー?!!」
雛乃がたっぷり3秒は固まっているうちに、雛香はドアの向こうへと消えていた。