君を咬み殺す3 | ナノ




孤高の瞳
『……君は僕が殺したようなものだ、なんて言ったら』


 なんだそれ。

 声に出さずに呟く。吐き捨てる。
 3日前、無機質な黒目とともに告げられた言葉だ。

 なんだそれ。なんだよそれ。
 ずんずんと大股で廊下を進みながら、首の包帯に指先だけで触れる。

『……失望しただろう?』

 なんだよ、
 なんでお前は、そんな目をしているんだ。


 γと闘った時は頼んでもないのにやって来て、
 人が眠りこけてれば隣で勝手に手を握って、
 わけのわからない嘘をついて騙して、
 あげくに俺の首を手加減なく絞めにかかって。

 なのに。


『……僕が殺したようなものだ』


 容赦なく喉元を圧迫しながら、
 最後に見えた目は、なぜか辛そうでいて泣きそうな、そんな、今まで一度も見たことのない色をしていて。

 ――否。


『……ふざけるな、なんで僕を庇ったりなんか……』
『嫌だ、雛香……死ぬな……目を、開けろ……!』

 いつか、どこかで。
 一瞬だけ、見たことがあるような、

 なんて。


「……わけわかんねーよ」
 10年後に来てからというもの、わけのわからないことばっかりだ。
 妙な既視感、覚えのある夢、獄寺の苦い笑み、雛乃の泣き顔、雲雀の見たことのない瞳――。

「……くっそ」

 チッ、と舌打ちをする。
 どこまでも長い廊下は、どれだけ歩いてもあの黒髪のもとまで導いてはくれない気がした。

「……人の首、手加減ナシに絞めやがって……」

 目の前まで迫った、黒い瞳が脳裏に浮かぶ。
 切れ長で鋭い、自分の記憶の中よりもいくばくか細いあの瞳。

『……君は、僕が殺した』

 その瞳を確かに、彼は苦しげに歪めてみせた。


「……ぜってー、殴ってやる」
 悩むことなら散々した。
 でも、どれだけ考えたって答えなんて出やしない。悶々とするだけ馬鹿らしいのだ。

 だから、
 全部問い詰めて聞き出して説明させて、そっから思いっきりぶん殴る。
 そうしたら。


「……全部、ふっ飛ぶだろ」


 なあ、雲雀。
 お前に、そんな目は似合わないんだよ。





- ナノ -