君を咬み殺す3 | ナノ




水面下の苦悩
「……雲雀、さん」
「やあ、宮野雛乃。ところで沢田綱吉、煩い相手が君の事を探していたけれど」
「え……」
 突如医療室の入り口に現れた雲雀に、あぜんとしていたツナの頭は、のろのろと動き出す。

「……あ、あ……」

 そういえば、午前ラルとの修業を終えて、午後からまた手合わせする前に、ちょっと雛香くんの様子を見てこようとして……。

 嫌な予感。
 じりじりと胃の底を焼く焦燥を感じながら、ツナはおそるおそる時計を見た。

「……あ、あ、ああぁああああ!!」
 かんっぜんに、時間過ぎてる!!!

「煩いよ、騒々しいね。咬み殺す」
「まっ、待ってくださいすみませんでしたっ!!」

 思わず頭を抱えて土下座しかけるツナの前、己の武器をかまえて背後に炎を燃やす雲雀の姿。
 雛香と雛乃は先ほどまでの空気も忘れて、同時に小さく吹き出した。

「……って、ていうか!雛香くんなんでそんな平気そうなの?!」
「……へ?」
 こめかみから恐怖による汗を流しつつ振り返り叫ぶツナに、雛香はきょとんと見つめ返す。
 というか、そこまで雲雀が怖いのならわざわざ振り向いてまで聞かなくても、と雛香は思う。そこらへんがまたツナの面白いところなのだが。

「だって、雛乃のために死んだんだろ?」
 今日の天気は雨だろ、くらいの軽さで彼は言う。


「だったら、むしろ本望だよ」


「……雛香、くん」
「……なんて、まあ」

 ふっ、と笑んだ雛香は、おもむろにベッドから飛び降り、ツナの前へと歩み寄る。

「……それで雛乃が喜ばないってことには、気が付いたんだけどね……最近」
「?!」

 わしゃ、と突如髪をかき乱されたツナは、ぎょっとし相手を見上げた。
 自分よりほんの少しだけ高い、黒い瞳。
 何すんの、と言いかけたのをツナは思わず飲み込んだ。


「……ツナ達が、教えてくれたから」


 ふっと優しく笑む、黒い瞳。
 ぐしゃぐしゃとかき乱す手の平を感じながら、ツナは小さく口を開いた。

「……雛香く、」
「わかってるよ。……もう少し、自分を大切にしろ、だろ?」

 口元を上げ、晴れやかに笑った彼に。
 ツナも、思わず頬を緩めていた。


 だから、気が付かなかった。
 背後、顔を翳らせ俯いた、雛乃の表情の変化に。

 そして、無表情に背を向けた、雲雀の横顔に。





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