君を咬み殺す3 | ナノ




彼が死んだ理由
 嗚咽する雛乃(見た目青年)とそれをベッドの上から抱きしめ落ち着かせる雛香(14歳)という、非常に不思議な光景を眺めながら、
 しかしツナもまた涙腺が緩んだ。

 良かった、と心の底から思う。

 雛香は死んだ、と告げた時の、雛乃の感情の欠落し切った顔。

 何が雛香の死因となったかはわからないが、1人残された雛乃は、今まで想像を絶する辛い日々を過ごしてきたに違いない。
 背丈も伸びて顔も鋭さを増したけれど、でも、彼はきっとずっと求めていたのだ。

 最愛の兄とこうして会える、その時を。


「……雛乃……雛香くんっ……」
「……ツナ、顔ぐっしゃぐしゃだけど」
「う、うるさいよ雛香くんっ……雛香くんだって目うるうるさせてるくせに……」
「は、何言ってんの、んなわけないじゃん」
「いやあるから」
「ない」
「ある!」
「ない!」
「2人とも仲良いね……ツナ、嫉妬するよ……」
「待って雛乃!嫉妬のレベル早すぎない?!」

 ただの言い合いにすら涙を拭きつつ腹黒い笑顔を浮かべる雛乃に、ツナはもはや恐怖を感じた。

「……でも、本当に無事そうで良かったよ、雛香くん」
「だから大丈夫だってこのくらい」
「嘘つかないでよ。内臓、やばいんでしょ?フゥ太から聞いたんだからね、俺」
「いや、内臓のひとつやふたつ、別に問題ないし」
「「いやあるから」」

 ツッコんだツナと雛乃の声がきれいにハモる。

「そんなこと言うから心配なんだよ……もっと自分を大切にして、雛香くん」
「え」

 ため息をつき、ツナは雛香を困った表情で見つめた。
 骸との時といいヴァリアーとの時といい、彼はどうしてこう自分の事は二の次になるのか。

「いやだって俺、雛乃のためならどうなってもいいし」
「雛香!」
 あっさり言い放った雛香に、傍らの雛乃がパッと立ち上がり咎めるように名を呼んだ。
 だが、黒髪を軽く揺らす少年は気にかける様子もなく、むしろ微笑み雛乃を見上げる。

「だから、雛乃は何も思う必要はないよ。むしろ謝らなきゃいけないのは俺だ……1人に、した」
「……違う」
「え?」

 口を挟めず立ち尽くすツナの前、なぜかひどく苦しそうな顔をした雛乃が、雛香の言葉を突如遮る。
 目を見開いた雛香の前、兄によく似た黒目に辛苦の色を浮かべ、雛乃は口を開いた。

「……違う、違うよ。謝るべきは僕だけなんだ。だって、雛香が死んだのは――」

 雛香が、死んだのは。


 思わぬ話の展開に、
 さしもの雛香も息を呑み、ツナが凍り付いた、その時――。



「宮野雛乃を庇ったからさ」



 止まった時間の中、響いたのは低い声音だった。


「……そうだろう?宮野雛乃」





- ナノ -