君を咬み殺す3 | ナノ




安息の時
「……って訳で、ツナはラルに鍛え上げられてるみたいだよ、雛香」
「……何それ」
 ぶうたれるのは、ありありと不機嫌を顔に表す雛香。

「俺はどうなってんだよ雛乃」
「雛香はしっかり休んでて。一命を取り止めたとはいえ、今も身体にはかなりの負担が掛かってるからね。動くなんてもってのほか」
「俺だけ足手まといなんてやだ」
「拗ねない怒んない口尖がらせない。可愛いけど」
「雛乃ー」
「そんな上目遣いされても揺らが……揺ら……ちょっと揺らぐかも……」
「しっかりしてよ雛乃?!!」
「「あれ?ツナ?」」
 いつの間に、とそろって目をぱちくりさせる2人に、医療室のドアを開けたツナはため息をついた。


***




 入江正一を倒すために強くなると決意してから早幾晩、ツナはすでに修業に入っていた。獄寺と山本は未だ療養中だったが、まもなく修業に参加できそうだという。
 しかし、禁じられていた『催眠』を使い、生死をさまよった彼だけは別。
 怪我が治りつつある今も、現状だけを手短に説明され絶対安静を命じられているのだが――。


「ボンゴレボス、俺ハイパー元気だからなんとかして」
「できないよ!!ていうか大人しくしてて!」
「無理。1人足手まといとかほんと無理」
「言っとくけどかなりヤバイ状況らしいからね雛香くんの体!!」
「俺が平気って言ってんのに?」
「むしろなんでそんなに平気そうなの?!」
 顔色は悪いながらも他はいつもと変わらないその態度に、ツナは目をむきツッコむしかない。

 ベッドの上、むすっとした顔でこちらを見上げるその姿は、幾日か前の重傷の様子は欠片もなく。
 だが、実際彼の体は非常に危険な状態らしい。
 暗い面持ちのフゥ太にそう告げられたツナとしては、彼の修業を許可するなんてもってのほか。

「皆心配しすぎだろ。リボーンも昨日すんごいうるさかった」
「「えっリボーン来たの?」」
 いつの間に、と2人の声がきれいに重なる。
「ああ。なんか、元気そうで安心したけど大人しくしてろよって」
 つまらなそうに言う雛香の顔は、まるで大したことないと言わんばかりである。
 実際、大したことないはずがないのだが。

 ちなみにここで「僕の知らない間にあいつ……」と雛乃は黒い顔で呟いていたりする。
 伝説のアルコバレーノにすら殺意をみなぎらせる、それが10年後の宮野雛乃である。


「お願いだから、無茶しないでね。雛香」
 ちゅっ、と雛乃がおもむろに雛香の額に口付ける。
「ん……」
 不服そうな様子を見せながらも、額を触る雛香はどことなく嬉しそうな顔をした。
 ちなみにツナはドン引きである。

「……もう2度と、雛香を失いたくないから」

 ぽつり、落ちる言葉。
 ツナははっと息を詰め、うつむく横顔を見た。
 悲しそうな、暗い瞳。

「……うん。ごめんな」

 1人に、して。

 そっとベッドから起き上がった雛香が、傍らに膝をつく雛乃に手を伸ばした。自分より10歳年を経た、双子の弟の頭を優しく撫でる。

「……雛香……」

 ぐしゃり、歪んだ顔を上げた雛乃が、
 次の瞬間、

 堰を切ったように泣き出した。





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