久しぶりに良い夢を
ベッドに寝かされている自分の横、椅子に座りやや俯き加減に下を向いている、細い横顔。
その瞳は閉じられていたが、誰なのかははっきりわかった。
「……ひば、」
り、と言い掛けて慌てて口をつぐむ。
代わりに、まじまじとその寝顔を見つめた。
閉じられた瞼、すっと通った鼻梁に白い頬。
着ているスーツの首元ははだけネクタイが緩めにほどかれていたが、またそれが嫌味じゃなく似合っていて――。
(いや、何考えてんだ俺)
思わず顔を背ける。途端に鈍痛が首に走ったがそれどころじゃない。
(……10年後、だよな)
面影はあるから、間違いなくそうだろう。
ただ、なんていうか、その。
(……いや、かっこいいとか、そんなこと思う、わけじゃなく……)
ちらり、横目でもう1度見る。
静かに佇むその横顔は、10年の月日を経て随分と鋭く大人びていて、しかも整っていて。
ああもう。
もう一度ぱっと顔を背ける。なんだよこいつ。くそ、美形め。
内心毒づくことで、早くなる鼓動をなんとか抑えにかかる。無駄だったが。
「……?」
そういえば、なんで横を見たんだっけ。
ふと思い出して左手を見下ろせば、自分の手を握る、もうひとつの白い手が見えた。
え。
パチパチと瞬きをしてその手の上へ上へと目を動かせば、当然のごとく、横で眠る青年へと辿り着いた。
「……な」
ほんと、何なんだよ、こいつ。
急速に頬に熱が集まるのを感じながら、雛香は慌てて顔を横に向けた。
隣に眠る青年の姿が目に入らないように、そしてできるだけ手を包む温度を意識しないように。
「……ほんと、」
なんなんだよ。
呟いて、口をつぐむ。
目を閉じれば、視覚が無くなる分、手元の温度にどうしても意識がいってしまって。
……人の気も知らないで、ほんとに、こいつは。
小さく呟いた、少年の目元は赤く。
明かりの無い室内で、それを見る者は誰もいない。