君を咬み殺す3 | ナノ




久しぶりに良い夢を
 ベッドに寝かされている自分の横、椅子に座りやや俯き加減に下を向いている、細い横顔。
 その瞳は閉じられていたが、誰なのかははっきりわかった。
「……ひば、」
 り、と言い掛けて慌てて口をつぐむ。
 代わりに、まじまじとその寝顔を見つめた。

 閉じられた瞼、すっと通った鼻梁に白い頬。
 着ているスーツの首元ははだけネクタイが緩めにほどかれていたが、またそれが嫌味じゃなく似合っていて――。

(いや、何考えてんだ俺)

 思わず顔を背ける。途端に鈍痛が首に走ったがそれどころじゃない。

(……10年後、だよな)
 面影はあるから、間違いなくそうだろう。
 ただ、なんていうか、その。

(……いや、かっこいいとか、そんなこと思う、わけじゃなく……)

 ちらり、横目でもう1度見る。
 静かに佇むその横顔は、10年の月日を経て随分と鋭く大人びていて、しかも整っていて。

 ああもう。

 もう一度ぱっと顔を背ける。なんだよこいつ。くそ、美形め。
 内心毒づくことで、早くなる鼓動をなんとか抑えにかかる。無駄だったが。

「……?」
 そういえば、なんで横を見たんだっけ。
 ふと思い出して左手を見下ろせば、自分の手を握る、もうひとつの白い手が見えた。

 え。

 パチパチと瞬きをしてその手の上へ上へと目を動かせば、当然のごとく、横で眠る青年へと辿り着いた。

「……な」

 ほんと、何なんだよ、こいつ。

 急速に頬に熱が集まるのを感じながら、雛香は慌てて顔を横に向けた。
 隣に眠る青年の姿が目に入らないように、そしてできるだけ手を包む温度を意識しないように。

「……ほんと、」

 なんなんだよ。
 呟いて、口をつぐむ。
 目を閉じれば、視覚が無くなる分、手元の温度にどうしても意識がいってしまって。

 ……人の気も知らないで、ほんとに、こいつは。

 小さく呟いた、少年の目元は赤く。
 明かりの無い室内で、それを見る者は誰もいない。





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