君を咬み殺す3 | ナノ




交差する同感情
 腕の中の体は、いつかよりも随分細く小さく。
 血でぬめる体を抱え直し、雲雀は足早に治療室を目指す。

 神社のカモフラージュを発動させ、雲雀は自身の地下施設の中をずんずんと進んでいた。当然、ツナ達のことは放置である。
 ふと目を落とせば、無表情で瞼を閉ざす少年の姿。
 僅かに開いた口から、つつっと新たな血液が一筋、垂れ落ちた。

「……君は、本当に愚かだね」

 呟き、袖で拭う。そのまま、雲雀は足早に廊下を駆ける。
 次に『催眠』を使えば、死に至るとわかりきっていただろうに。

「……死なせないよ」

 静かに宣言し、雲雀はぎゅっと腕を引き寄せた。
 意識のない彼は、くたり、と重力に引かれ揺れるだけ。


『……雛香を、渡して下さい』

 ふと、脳裏に声が蘇る。
 今目の前で眠る彼とよく似た、凛としたその通る声。
 兄と酷似したその瞳を、どこか悔しそうに、そして諦めたように彼は伏せた。

 そんなあの子も、また。

「……君達は、本当に」

 呟き、雲雀はため息をつく。
 本当に、馬鹿で愚かな双子だ。


「……憎めばいいのに」


 一度、兄を殺した自分を。


***




「なんだって?!またリングが消滅した?!」
「はい……赤河町に移動したリングも……」
「まだうちの部隊は登場しないのか?!」
「やはり第3部隊の凍結を解いて……」
「ダメだ!!」

 ありえない、と勢いよく叫ぶメガネの青年。
 その身に纏うのは、白いミルフィオーレの隊員服。

「彼らは上司の命令に背いたんだぞ!早く撤退を……」
《不機嫌そうだね》
 焦り、次々と大声を発する青年の前に、

 プツッと現れる、スクリーン上の男。

「……白蘭さん」
《久しぶり、正チャン》

 ニコ、と微笑み紡がれる挨拶にも、メガネの男――第2ローザ隊員隊長・入江正一は、ムスッと不機嫌そうな表情を見せる。

「とうとう……始まりました」
《うん。でもあんまり幸先良くないみたいだね》
「……ブラックスペルが彼らと交戦したらしいです。彼らに協力者のいる可能性も……」
《それって計画と違うじゃん》

 にこり、笑みを深めた白蘭が言葉を重ねる。

《言ったはずだよ、彼らがやって来たら迅速に……》
「やってますよ!!僕はやってるんだ!!」
 
 おもむろに机を叩きスクリーンへ身を乗り出した入江に、しかし白蘭は動じずただ頬杖を付いた。

《出たよ。正チャンの逆ギレ》
「……。」
 子供でもからかうような微笑みに、入江はますます眉間にしわを寄せる。

《……まー、もめるだろーけど、ブラックスペル側にも話す用意しとかなきゃね》
「えっ?!」

 唐突な白蘭の提案に、入江はメガネの奥で目を見開いた。

「ど、どう説明するんですか?!」
《どうって?簡単だよ》

 動揺の声を前にし、スクリーンの中で悠然と足を組んだ白蘭は、優雅に微笑み入江を見下ろした。
 まるで、玉座の王のように。

《予定通りに、過去からの贈り物が来たってね》

 僕は次のトゥリニセッテポリシーを、紡ぎ出すまでさ。
 難なく言ってのけた相手に、入江は眉を曇らせつつも口を開く。

「……それは、"彼"のためですか?」
《何の話かな?》

にこり、画面の向こうでいつも通りの笑みを見せる白蘭。

「……おそらく、彼も来たはずです」
《そうだろうね》

 微笑む、白い口元。
 その瞳がいつもより嬉しそうに輝くのを見、入江は密かに口の端を噛んだ。


《……宮野雛香……》


 やっと、会えるね。





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