君を咬み殺す3 | ナノ




冷たい間
 呆然と、ツナは2人を見上げていた。

 少し前、ヴァリアーと対決した、あの時以上に夥しい血に染まり意識のない雛香の両脇、
 感情の無い瞳で相手を見下ろす雲雀の姿、そして鋭い目で睨めあげる雛乃の姿。

「……何言ってるの?」
「雛香は僕が預かります。渡して下さい」
「どうして?」
「どうして、って」

 一瞬、鋭く目を細め何か言いかけた雛乃は、だが次の瞬間、ぐっと口を閉ざした。

「彼は僕が連れて行く」
「……。」

 再度、紡がれる雲雀の言葉。
 雛乃はきゅっと唇を引き結び、鋭い目付きで雲雀を見上げた。

 対峙する、2人。
 まるで互いの心中を探り合うかのように見据え合ったまま、数秒、空白の時間が流れ――。

 やがて。


「……わかりました」


 小さく呟き、雛乃がすっと視線を外す。

「……雛香を、お願いします」
「うん」

 横をすり抜け林へと向かう雛乃に、雲雀は振り向きもせず答えると、反対側へと歩を進める。
 まるで、何事も無かったかのように。

「……えっ、な……」
 何今の。
 呟いたツナの前、滑らかに通り行く雲雀が口を開く。
「獄寺隼人と山本武は、彼が向かった林の中だ」
「え?!」
 ぎょっとし慌てて雛乃の背を追いかけたツナの先、見えた光景は――。

「獄寺君!山本!!」

 雛香と同じく血に染まる、2人の姿。

「大丈夫、命に別状はありません」
「あっ、あなたは……」
 驚きに目を見開くツナの前、見覚えのあるリーゼントがゆらゆらと揺れる。
「でも、早くアジトへ運ばないと」
 ツナの驚きをよそに、膝を折り淡々と答える雛乃。

「雛乃さん、彼をお願いできますか?」
「勿論。じゃあ山本をよろしく、草壁さん」
「はい」
「え、くさかべ……って」
「草壁哲矢、雲雀の部下です」

 確か副風紀委員長だった……とツナが思案する間に、雛乃がヒョイっと獄寺を背負いあげた。

「あ、俺も……」
「あ、じゃあ獄寺お願いできる?ツナ」
「うん!」

 大きく頷き雛乃から獄寺を背負ったツナは、予想外の重さに思わずよろめいた。
 なんとか背負い直して顔を上げたところで、ふと、視界の端に動かない人影をとらえる。

「……?」

 不思議に思い顔を上げたツナの傍ら、雛乃は、どこか一点をただじっと見つめていた。その視線を辿っていけば、もう随分と遠い黒い背中に行き当たる。
 ツナは、思わず雛乃の顔を見上げた。
 
 先ほどの雲雀とのやり取りといい、今の何の感情も浮かんでいない横顔といい――この2人の関係は、何か、おかしい。

 違う。
 どこか、こじれている、というのか。

 10年前から来たばかりのツナには、どこかよそよそしい2人の距離感を推し量ることはできない。
 ツナの視線に気付いているのかいないのか、感情の読めない瞳で雲雀を見送る雛乃。

 唇を噛む。
 どうしようもできないまま、ツナはただ獄寺を背負い直した。





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