君を咬み殺す3 | ナノ




雲雀の想い
「雷のリングは要らないな」
 呟き、雲雀は軽く足元を払って立ち上がる。地に伏した相手は血に塗れ、ピクリともしなかった。
 虚ろなその目を一瞬見つめ、雲雀は瞼を閉じγに背を向ける。


『……互いを、最も大切な者と、していた、と……』


 足が止まる。

 自分の前、少し離れたその場所に。
 地にうつ伏せ動かない、小柄な身体があった。
 その背中で、揺れる黒髪。


「……それは、間違いだね」


 呟く。
 今すぐにでも駆けつけたいのに、足は固まったままだった。

 足がすくむ。

 そんな言葉が、脳裏に浮かんだ。
 この僕が、すくむ。恐れている。
 何を。


「……僕は、」


 僕には、まだ資格はあるだろうか。
 君に触れる、その資格は。

 視界の端、ぴくり、投げ出された指先が震えるのを見た。
 微かに地面に引っかき傷を残し、爪先が動き出す。



『……あいしてる、から……』
笑んだ、黒い瞳。


「……雛香」
 思わず、名を呼んでいた。
 呼んだ瞬間、

 自分の中で、何かが弾けた。

 どうでもいいと、思った。
 胸元を塞ぐ感情の全てをどうでもいいと、思った。

 そう、どうでもいい。
 僕は、僕がしたいようにやる。そうやって、今までずっと生きてきたのだから。

 ただひとつ、君に本心を打ち明けなかった、それ以外は。


 足を止めていた物など何もなかったかのように、雲雀は大きく一歩踏み出した。
 踏み出したその先、地面に横たわり動かない、雛香へ向かって。





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