集結の合図
体勢を立て直したγの前、数多のボールに進路を阻まれ舌打ちをする雲雀。
「3番ボール」
「!」
とっさに左腕を薙げば、
「ぐっ」
「ビンゴ」
トンファーに衝突し電撃を散らすボール。
雲雀は小さく舌打ちをし、軽く左腕を振る。
たったそれだけの動作で己の腕の調子を確かめると、何事もなかったかのように再びγへ向けて地を蹴った。
「あいにく、このショットの軌道に人が生きられるだけの隙間は無いんでね」
「確かに全ては避け切れそうにない」
次々と襲い来るボールの波をかいくぐり、雲雀は口角を上げうっすら笑む。
「だから、当たるのはこの一球だけって決めたのさ」
「!」
驚きに目を見張るγの前、急速に距離を詰め凶器を振りかぶる雲雀の姿。
(「だから初めから左腕だけに防御の炎を……なんて奴……」)
この男は、ペアで動く事が多かったと聞いていたのだが。
単独でも揺るぎなく迫るその姿に、γは微かに焦りを見せ足へと炎の波動を伝わらせる。
(「……そう、確か……次期門外顧問と組む事が多かった、と……」)
聞き覚えのある噂を記憶から手繰り寄せる。
ちら、一瞬目をやった背後には、四肢を投げ出し横たわる小さな体。
「逃がさないよ」
「それとこれとは話が別だ」
隙を逃さずトンファーを振るう雲雀に、勢いよく空へ逃げるγ。
そのまま雲雀の手の届かない空中からキューを振るおうとした、
刹那。
「……っ、な」
胸元を貫く、異物感。
「……なんだ、こりゃあ…」
***
「……そう、君の狐の炎を元に、あのハリネズミがこれだけの雲を発生させたのさ」
「そうか……雲属性の特徴は……『増殖』だった、な……」
呻くγを貫き浮かび上がるのは、
空を覆うがごとく巨大に膨れ上がる、球針態。
雲雀は淡々と答えると、すばやくトンファーに炎を宿した。
「さあ、終わるよ……雛香に手を出した分も、その身で支払ってもらう」
「……噂は本当、だったんだな」
地を蹴り飛んだ雲雀の言葉に、γが瞼を下ろしつつ呟く。
「……雲の守護者と宮野雛香……奴らは最強のコンビであり、そして…」
雲雀は、飛ぶ。
雲を使い軽やかに浮かび上がり、その両手に凶悪な愛武器を携えて。
まるで、何も聞こえていないかのように。
「……互いを、最も大切な者と、していた、と……」
***
「……あっ、あれは!」
草をかき分け顔を出したツナは、空へと顔を上げ目をまんまるく見開く。
「遅すぎるよ、君達」
一瞬目をやると、雲雀はそれ以上の興味を見せず、ただ勢いよく雲の足場を踏み上がった。
「……あ、あれって……もしかして!」
戸惑いと期待、2つの感情をあらわにし叫ぶツナの背後、
宮野雛乃は、静かに足を止めた。
その眉根を微かに寄せ、ひどく複雑そうな表情で。
「……雲雀、さん……」