最悪な光景とともに
「京子ちゃん……!」
「ツナ君!!」
「無事で良かった!」
「ごめんなさい……私……」
「えっ!あ、き、気にしないで!」
10年後の黒川花に無事かくまわれていた京子に、ツナは安堵の息を吐き、笑顔を見せた。
「ツナって本当、奥手だよね」
「この状況でお前はよくのんきにそういうことが言えるな、雛乃……沢田、急ぐぞ!」
「え!あ、うん!ごめん黒川……さん(でいいのか……?)、もう少し京子ちゃんをかくまってくれないかな?」
頭を下げるツナに、花は目をぱちぱちさせながら頷く。
「そりゃ、いいけど……」
「ありがと!じゃああとでねっ」
パタン、と慌ただしく閉まったドアを見つめ、京子と花はぽかんとしたまま立ち尽くす。
「い、忙しそうね……しかも沢田も縮んでるし……」
「雛乃君は、違うみたいだけど……」
不安げな顔をする京子が思いを馳せる先、走り去った3人が向かうのは、
並盛神社、その場所。
***
「……さあて、ボンゴレ10代目はいつ生き返ったのかな?」
山本の一撃を予備の炎で防いだγが、立ち上がる。
「お前らの若さにも驚いたが、それよりもボンゴレ10代目だな……生きてるとはただごとじゃあない」
(まずい……!!)
平然と佇むγの姿に、獄寺の背中を冷たい汗が流れ落ちた。
(……俺1人で、コイツを……!)
脳内で即座に次の策を思考する。山本が倒れた今、状況は非常に悪い。
だが、必死で策を巡らす獄寺の脳は、
「――全く、このままじゃあボンゴレ門外顧問も生きてる、なんて言いかねねーな」
その一言を聞いた瞬間、停止した。
「……何?」
「あー、次期、か。現門外顧問では無かったか」
何とも思ってなさそうに、γはつらつらと言葉を並べる。
ひどく冷然と淡々と、そしてどうでもよさそうに。
「そっちの方がよく知ってんじゃねえか?仲間を庇って死んだとかだったな」
凍りつく獄寺の脳裏に、
まさか、そう思いながらも浮かび上がる、
1人の少年。
「今は双子の弟が次期顧問に収まったらしいな……たしか、そう……宮野雛香、だったか?」
――悲痛に歪められた、雛乃の顔。
『……宮野雛香は、死んだ』
「……ろしたのか」
「ん?」
「殺したのか……雛香を!!」
聞いた時は、まさかと思った。
悪い冗談だ、間違いだ。でなければ、夢か。
『いいぜ、ここでやり合うか?獄寺』
挑発的に唇を緩めて笑う、あのまっすぐな黒目が、二度と見られないだなんて。
そんな、未来が待っているなどとは。
「……て、」
「ん?」
「てめぇら、全員果たしてやる!!!」
絶叫した獄寺に応えるように、赤色の炎〈フレイム・アロー〉が大きく口を開ける。
「許さねぇ!!!」
放たれた巨大な炎の塊に、しかしγは微動だにせず――。
***
「……ここか?」
ガサリと木の根元をかき分け、雛香はひょいと顔を覗き込む。
「うわっ、火薬くさ……獄寺がダイナマイトぶっ放しまくったみたいな……」
顔をしかめながらぶつぶつと呟いたところで、
呼吸が止まった。
「……は、」
眼下、周囲を木々が囲む中、
僅かにひらけた、その場所で。
「そろそろ吐かねーと、とりかえしがつかねぇぞ」
地に伏せたままぴくりともしない山本、掴みあげられる獄寺。
そのどちらも、
尋常でない量の血に染まっていて。
「……なるほど、そうかい」
獄寺の首を乱暴に放し、
見知らぬ男は、非情にも武器を振り下ろした。