対峙する2人
「!!」
γは眉を寄せ、己の武器を止めた人物へ視線を向ける。
この自分が気配に気付かなかったとは。
そんなに油断していたつもりは、なかったのだが。
「……っけんな……」
「……?お前は……」
目の前の2人より小柄な身長、揺れる黒髪、
そしてその下から覗く、強烈な光を宿した瞳――。
「……殺す」
「!!」
とっさに背後へ飛んだ足元、視認できない速さで突き刺さるナイフの列。
「……こりゃあ、驚いたな」
大きく下がり、いったん距離を置く。
ポンポン、とキューで手を叩き、γは小さく肩をすくめた。
「お前も若い、が……問題は、そこじゃねえ」
「死ね」
しかし、相手の少年に聞き入る様子はない。
ゆらり、両の手にナイフをかまえるその全身から、彼はビリビリと空気を震わすような殺気を放つ。
「……死んだという報告を受けたんだがな……宮野雛香」
「……へえ?」
口元を歪め、その目に奇っ怪なほど鋭い光を宿し。
「……なら、冥土の底から帰ってきたっつーことで良いよ」
刹那、彼は全てのナイフを空に放った。
***
空を切った無数のナイフは全て弾かれた。
本人のまとう雷、あれも厄介だがそれよりも問題は謎の生き物の方。
(……狐?)
にしては奇妙だ。自分が知っている狐は飛んだり空を駆けたり、ましてや火花を散らしたりしない。
頭の片隅にずいぶん冷静な部分があるのを感じながら、しかし雛香は無表情にナイフを投げる。脳の片隅、その一部分以外の全身を支配するのは、
煮えたぎる、紛れもない怒り。
(……必ず、こいつは殺す)
今までなんであれ、人を殺した事は無かった。
だが、目の前で悠々と飛ぶ相手は、絶対に。
(……許すか)
滅茶苦茶にされた獄寺と山本を見た瞬間、雛香の脳裏を支配したのは、ただそれだけ。
「……こいつはビックリだな」
バチバチと耳障りな音とともにナイフを跳ね返し、名も知らぬ男は空に浮き、薄く笑う。
「降りてこいよ」
「いやはや……ただの武器ごときで、まさかここまでやるとはな」
「はあ?」
イラ立つ感情に任せて眉を寄せる。馬鹿にしているのだろうか。
どのようなマジックを使っているかはしらないが、確かに相手のような芸当は出来ない。
しかし、つい最近までザンザス(を始めあのクソ王子やマーモン)に(無理やり)鍛えられていた身としては、そうそう容易くねじ伏せられるつもりは無い。
「……いやー、恐れいっちまって……」
心臓が跳ねる。全身を貫く、嫌な感覚。
何か、何かが、
「……うっかり手ぇ出すの、やめるとこだったぜ」
――来る。
瞬間、
何が起きたか、理解できなかった。