3つのリング
「……雛香」
「貴様も参戦するか。宮野雛香」
「いや、二対一はさすがにダメだろ。……ってわけで選手交代、雲雀」
「ふざけないで。何言ってるのさ」
「お前ばっかりずるいんだよ。何のために修業したと思ってんだ」
じとり、こちらを見上げる瞳は状況が違えば可愛らしくも見えるだろうが、今は残念ながらそんなに悠長な時ではない。
「どいて、雛香。あれは僕の相手だよ」
「お前ばっかに庇われてちゃ、俺の立場が無いだろーが」
わざとそっけなく言い放ったのだが、なぜか前に立つ少年はにっと笑った。
息が詰まる。
ほんの一瞬、確かに――その顔に、10年後の面影が被ったような、そんな気がして。
「……オレは別に構いはしない。2人まとめてかかってくるがいい」
「や、それは俺の美徳に関わる」
「バカなこと言ってないで、下がってくれる?」
いつまでも引きそうにない雲雀と雛香をどう思ったのか、
「!」「っ!!」
次の瞬間、
地面へ深々と銀の双剣が突き刺さった。
「……あっぶね」
「ねえ邪魔」
「お前がな」
1秒前まで2人がいた地点、そこからぐっと引き抜かれる、藍色の炎を纏う刃。
再び剣を構える幻騎士を見、雲雀は素早く手首へ視線を落とした。
(……このまま、だと)
時間がない。
宮野雛乃の、二の舞になる。
「……仕方ないね」
「?雲雀?」
ため息混じりの雲雀の言葉に、きょとんと瞬きをする雛香。
「……残るリングは、Cランクが2つにDランクが1つ」
「わお可哀想。ココは俺のAランク以上が日の目を見る時」
「……ほんと、君って煩いね」
言葉とともに、雲雀は持ちうる全てのリングを指先へ嵌める。
その様子を見ていた雛香が、どこか不安げな目付きで雲雀を見上げた。
「……何するんだ?雲雀」
「ヤケになったか」
「いや」
幻騎士の声に顔を上げ、雲雀はうっすら口角を上げる。
「個人的な恨みもあることだし――……君は、かつて味わったことのない世界で、咬み殺してあげる」