君を咬み殺す3 | ナノ




霧の闘い
 甲高い金属音が鳴り響く。
 激突した2人は、瞬時に互いを突き飛ばすようにして距離を取った。
 バシャ、と余韻に水が跳ねる音だけが小さく響く。

「……なるほど、よく出来る……ボンゴレが誇る二大術士の名も、伊達では無いようだ」
「その言い方やめてくれない?」

 藍色の炎を両手に絡めたワイヤーに宿し、
 うっすら笑みを浮かべた雛乃は、唇を妖しく歪める。

「骸と一緒にされるなんてゴメンだね」
「だが」

 幻騎士はすっと双剣を構えた。
 その瞳は初めと変わらず、何にも動じず揺らぎもしない。

「所詮ワイヤーだ。そして……」
 ぐにゃり、その姿が2つに、
 否、

 "4つ"に、分かれる。

「貴様の幻術は、オレの足元にも及ばない」


***




 空を切る轟音とともに、四方から迫る白銀の刃。

「ッと…!、前半はっ、認めて、あげるっ、よ!」
「?」

 全ての剣先をよけた雛乃は、微かに微笑んだまま綺麗に床へ着地する。
 眉をひそめた幻騎士は、同時に4本の腕を薙いだ。
 それらを最低限の動作で避け、ワイヤーで弾く雛乃。

「僕の、この武器は……ッ、近距離戦に、向いてない、んだ!」

 タン、
 突如後方に飛んだ雛乃を、4人の幻騎士の刃が追う。だがその切っ先が届く前に、藍色の炎が再び噴き荒れた。
 瞬時に匣にリングを嵌め込み、雛乃は愉しげな笑顔を見せる。
 ただ唯一 ――その黒い瞳に、氷のように冷え冷えとした殺意をみなぎらせたまま。


「――オルトロスの閃光〈ランポ・ディ・ルーチェ・オルトロ〉!!」


 空へ投げられた匣から、真っ白な光が溢れ出した。


***




「……!これは……」
「オルトロスが生み出した光で作り上げた、強力な幻覚による理想郷〈ミーオ・ユートピア〉。……気に入ってもらえたかな?」

 幻騎士の周囲を覆うは緑の草花、
 色鮮やかに咲き乱れる赤に黄色、そして広がる澄んだ青空。

「なるほど……」
「君が作ってた幻覚のフィールドの中に、もうひとつ幻覚世界を作り上げてみちゃった、ってワケ」
「!」

 ニコリ、口角を上げて笑む雛乃に、幻騎士は目を見開いた。

「……部屋が幻覚だと、気が付いていたのか」
「当然。山本と戦う気だったんでしょ?足場、あんな動きづらい水で満たしてさ」
「……貴様」
「何その顔。甘く見ないでよ、僕は宮野雛香の弟だよ」

 そう言って笑みを深めた雛乃の横、静かに寄り添う二首の犬。
 足元を埋める色とりどりの花々と青空を背景に、その景色は奇妙なほどに穏やかでのどけさに満ちていた。

「いや、違う……貴様、思ったよりも落ち着いているのだな」
「あは、そう?まあ、我ながら昔に比べたら、随分抑えが効くようになったとは思うけどね」

 傍らのオルトロスから、藍色の炎が噴き上がる。


「でも、お前は絶対殺す」


 にっこり、狂気的なまでに鮮やかな笑顔を浮かべ、雛乃は雲ひとつない空を後ろに宣言した。





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