君を咬み殺す3 | ナノ




因縁
「やべえな、雛乃……どうする?」
「とりあえずこっち進もっか。マップは多分役に立たないっぽいし」
「え?!あ、ほんとだ」

 分断され獄寺と笹川から引き離された、雛乃・山本組。
 よいしょ、とラルを背負い直した雛乃の後ろ、薄い小型端末を見た山本は、驚きの声をあげた。

「使えない、となると……」
「シッ、山本」
「え」

 どうする?と問いかけようとした山本の唇に、突然雛乃が人差し指を押し付ける。
 わけもわからず唇を押さえられた山本は目を白黒させたが、雛乃の顔を見ておし黙った。
 と、ほぼ同時――やや離れた扉の向こうから感じる、殺気。

(……こりゃ、気づかれてるな)

 目を合わせ、互いの心中が一致したのを確認する。
 雛乃は静かに腰を上げ、山本もそのすぐ後を気配を殺してついていった。

 物陰で一旦停止、目と目で合図したその1秒後に、
 ほぼ同時に2人は前に飛び出し、そして――。


「……わーお、ここで会っちゃったかー……」
「え?雛乃、知ってんのか?」
「……貴様は」

 片隅にラルをそっと下ろし、雛乃が苦笑に近い笑みを浮かべる。
 だがその目に確かに浮かぶのは――鋭い、殺気。

「……いいね。わりとずっと待ってたんだよ、この機会を」
「雛乃……?」
「ボンゴレ門外顧問、宮野雛香の弟…宮野雛乃か」
「その通りだよ。霧のマーレリングの保持者……幻騎士」

 ざわり、肌を震わすほどの殺気を放ち、不穏な笑みを浮かべる雛乃の姿に山本は息を呑む。
 その表情は、ひどく酷薄かつ残忍であり――


「そして……雛香を殺した、その元凶」


 10年前の雛乃が何度か浮かべてみせた、あの歓喜と狂気を内包させた冷たい笑みに瓜二つだった。




「山本、悪いけどココ僕に一任させてね」
「!雛乃、」
「ごめんね、抗議は聞かないから」

 背負っていたラルを山本に押し付け、有無を言わさぬ口調で雛乃がこちらに背を向ける。

「雛乃、待て!気を付けろ、そいつスクアーロのDVDに出てきた……」
「ワザと負けてみせた100人目の奴でしょ、知ってるよ」

 前へ進みゆく雛乃の背に、山本は声を張り上げたが瞬時に一刀された。
 どんどんと進みゆくその黒い背中は、ちらとも振り返ることはない。

「……ほう。兄の仇か」
「は、仇?違うよ。そんなわけないじゃん」
「……兄はそんなもの望まない、というわけか」
「うん、まあその通り。だからこれは僕個人の僕が望む雛香のための殺人行為」
「……何を言っているか、今ひとつ明瞭でないな」
「にっぶいなあ。簡単な事だって」

 ぱしゃり、水の満ちた床へ何のためらいもなく足を踏み入れ、匣とリングの嵌まった片手を掲げながら、雛乃はうっすら笑ってみせた。
 嬉しそうに、愉しそうに、
 そして――憎々しげに。


「雛香にその首捧げてあげる、って言ってんだよ」


 刹那、藍色の炎が噴き荒れた。





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