君を咬み殺す3 | ナノ




突然の別れ
「いよっしゃー、弱々バイシャナも倒せたし、後は白い装置へ向かって突っ走るだけかなー」
「お前何もしてねぇだろうが……」
 うきうきと語る雛乃の方へ、獄寺があきれた目を向ける。だが、本人は至って何とも思っていなさそうだ。
「まあでも雛乃の言う通りだろ!あとはどんどん進んでこうぜ」
「そうだな!極限に突っ走るだけだ」
 山本と笹川の明るい言葉に、全員が通路を駆け出し始めた、

 ――瞬間。


「「「「「――?!!」」」」」

 轟音、そして振動とともに――


 突如、床が2つに"分かれた"。


***




「――何だ?!」
「基地が、動き出した」
「は?!」
「ちゃんと掴まってなよ」
「えっうわ、ちょっ」

 子どもでも抱き上げるかのように、雲雀は簡単に雛香をかかえ直す。
 急に体勢の変わった雛香は、慌てて雲雀の首元に両腕を回してしがみつき―― 一瞬遅れて、あまりの密着具合に顔を真っ赤にした。

「……君、」
 振り返り、雲雀は足元に寄るケルベロスを見る。
 だがどこまでも忠実な匣兵器は、大丈夫だと言わんばかりに3つの頭を縦に振った。

「……そう」
 足元、ぴったり張り付くケルベロスにくすりと笑んで、雲雀はそのまま壁に寄りかかる。

「雲雀!」
「何」
「ち……近い!」
「聞こえない」
「なっ……ちかい、っての!」
「振動で何も聞こえないよ」

 耳元、喚く雛香の声は足場を揺らす轟音の中でもはっきりと聞こえていたが、雲雀はわざとそう言った。
 首に両腕を回し、「うー……」だのなんだのうなる彼を放っておいて、雲雀は細い背中を支える腕に、そっと力を込める。
 雛香には気付かれないよう、少しずつ強く抱きしめて――目を閉じた。

 叶うことなら。

 もう少しだけ、こうしていられたら、と思う。


***




 全身を貫くような振動とひときわ大きい轟きに、突如、床が"分断された"。

「山本、雛乃ッ!!」
「獄寺!」「笹川先輩!」

 山本の手前、真っ二つに分かれた床が急激に落下し始める。

「つかまれ山本!!」
「獄寺、手遅れだ!腕を持っていかれるぞ!!」
「笹川先輩!!」

 下へ遠ざかる山本と雛乃、上で取り残され叫ぶ獄寺と笹川。

「先輩――あとは、任せます!!」

 最後に一言、雛乃の凛とした叫びだけを残し――


 5人は、完全に分断した。





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