君を咬み殺す3 | ナノ




告白
 ベッドに優しく横たえ直された。
 頬に手を添え当然のように顔を寄せる雲雀に、慌てて雛香は口を開く。

「ちょっ、待てお前ッ、」
「何」

 するり、シャツの第一ボタンをあっさり外され、雛香の口元は引き攣った。
 
「……あ、明日、決戦だぞ!」
「正しくを言うと今夜だけどね」
「ハ?」
「後で説明したげる、どうせもう眠れないから」

 何やら恐ろしいことをサラリと言ってのけ、雲雀は平然と覆い被さる。
 ギシリ、ベッドの木枠が軋んだ。

「……っ、そもそもなあ、お前なんにも、」
「好きだよ」

 間髪入れずに告げられた言葉に、

 今度こそ、頭が真っ白になる。


「……は、」
「だから、好きだ。雛香、君の事が」


 鼻先、今にも触れ合いそうな位置にある、黒い瞳を見つめ返す。
 言葉の中身を飲み込むまでに、しばらくかかった。

「……な、」
「足りない?」

 飄々と言ってのけ、雲雀は悠然と目を細めた。

「好きだよ、雛香。誰よりも」
「……、」
「ずっと前からね」
「……んで、」
「何……って、君、ちょっと、なんで泣いてるの」
「っ、ないて、なんか、」
「嘘つき」

 呆れたようなため息が降ってくる。そのまま、目元を指で拭われた。
 嘘なんかじゃない、そう言いかけた言葉は、嗚咽と混じり合って喉の奥へと引っ込んだ。

 どうすればいいのかわからない。
 ぐちゃぐちゃだ。我ながらもうわけがわからない。
 喉は痛いし目は熱いし、でも体中が焼けそうで、なぜかひどく嬉しくて――そう、嬉しい。
 多分、きっと、すごく嬉しいんだ、と気が付いた。
 全身が震えるほど、俺は。

「……ねえ、ちょっと。雛香」
「……っ、な、に……」
「返事、聞いてないんだけど」
「……バ、ッカじゃねえの」

 目を開ける。とびきりきっつい目つきをして、目の前の顔を睨みつけてやった。
 こんなぐっちゃぐちゃな自分を見て、まだわからないなどと言うのか、こいつは。


 大きく息を吸う。
 引き攣る喉をなんとか落ち着かせる。

 今だけ、良いだろうか。雛乃を、明日の決戦も、全てを忘れて――ただ、目の前の男のことだけを。
 きっとずっと望んでいた、この瞬間に応えることを。

 それは、許されるだろうか。

 全部――雛乃を守ることも過去へ帰るための努力も、一切合切やり遂げてみせるから、なんて。

「雲雀、」

 声の震えを、抑える。


「……好きだ。ずっと、前から」


 真上、切れ長の黒い瞳が、優しく暖かい色に染まった。





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