君を咬み殺す3 | ナノ




雛香の策
 現在、ツナは冷や汗をかきながら固まっていた。


「ツナは柔と剛の炎を使った新技、獄寺はSISTEMA C.A.I.〈スイステーマ シー・エー・アイ〉の完成と瓜、山本も〈剣帝への道〉を解禁……」

 否、ツナだけではない。
 その隣、瓜を従えた獄寺と時雨金時を手にしたままの山本も、どうにも動けず硬直していた。

「……つまり何が言いたいの?」
「つまり……」

 トレーニングルームの真ん中、張り詰めた空気のその源で。


「――俺にも開匣させろ雲雀!!」
「やだ」
「〜〜ッ!こんっの融通効かねえ鳥頭っ!」
「言ったね」


 ――非常に低レベルな闘いが、勃発していた。


***




「……ええーと、コレはどういうことだ?ツナ」
「俺にもよくわかんない……急に雲雀さんと雛香が来たと思ったら……」
「僕とツナが修業してたのを邪魔されたんだよねー、2人に仲良く」
「ひぃ、雛乃、顔が、顔が怖いよ……!」
「つか、なんでてめぇがここにいんだよ野球バカ」
「えー、俺は小僧が息抜きも兼ねてツナの様子を見に行くか、って言うから。そういうお前はどうしたんだよ、獄寺」
「俺は休憩ついでに、10代目に差し入れでもしようと思って来たんだよ」
「ほーんとほんと、トレーニングルームならもう1個あるんだからそっち使えばいいのに。なんでわざわざ見せつけにくるかなあ」
「雛乃が……般若みたいな顔してる……」

 隣から滲み出る殺気に、ツナは肩を震わせた。もうやだ、この人怖い。

「……見せつける?」
「そーだよ」
 眉をひそめた獄寺に、雛乃はプイッと横を向き年不相応にふくれてみせる。
「わざわざここに来たってことは、僕ら全員に見せつけにきたんでしょ」
「え……2人の仲良し具合を?」
「んなわけないじゃんツナ、本当にそんなんだったら雲雀さん潰す」
「ひっ、ひぃいい!」

 いつもの朗らかさゼロで返答されました。怖い。

「ああ言いつつも、雲雀さんやる気だよ」
 不意に真顔になると、雛乃は火花を散らす2人へ目を向ける。


「……開匣させるつもりなんだ。雛香に」





「……ッチ、くそ!」
「遅い」

 ダメだ。相変わらず隙がない。
 苛々と舌打ちをし、ぎりぎりトンファーを避けた雛香は一瞬、背後へ目をやった。
 壁際に並ぶ、何人かの立ち姿。

(……雛乃、)

「よそ見?」
「!」
 しまった。
 豪速で迫る鈍色に、なすすべもなく――。


***




「雛香!!」
「っ、いってえ……」
 真横、壁へ背中から突っ込んだ兄に、真っ青な顔をした雛乃が膝をついて覗き込む。
「雛香君!」「お、おい大丈夫かてめえ!」「雛香、」
 騒ぐ観戦者の声をすっぱり無視し、雛香は咳き込みながら手を伸ばした。

 目の前で膝を折る、雛乃の指先へと。

「え?」
「悪い雛乃、」

 目を見開いた雛乃から、一瞬でリングをむしり取る。


「今だけ――借りる!」


 一方的に宣言をすると、雛香はリングを握りしめた。


***




「――へっ?!な、」
「雛香」

 わけがわからず目を白黒させる雛乃の後ろ、平然とした面持ちで歩み寄る雲雀。

「もう終わりかい?」
「まさか。むしろ、」

 口元を拭い、雛香はリングを持つ手を高く上げた。


「今からが本番だ」





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