いつまでも思い出す
今でも思い出せる。
『こんなところにいたのか、白蘭』
『あ、見つかっちゃったー』
『ワザとらしい。しかもまたマシュマロ』
小脇に抱えた大袋に、彼は呆れた目つきをする。
『美味しいよ。雛香チャンも食べる?』
『い、り、ま、せ、ん。つか仕事しろミルフィオーレボス。なんっで俺があんたの分まで手ぇ付けなきゃなんないの』
『さすが優秀な僕の腹心』
『しねマシュマロ星人』
『わあぶっそう』
毒とともに飛んできた蹴りを、間一髪で回避する。
『チッ。ったく、その素早さを仕事に生かせっての。俺はもう行くからな』
『えー、待ってよ雛香チャン』
『やだね。俺はあんたと違って暇じゃねーの』
『もう』
苛々とそっぽを向く、その可愛いようで可愛いくないそっけない横顔に、ぎゅっと抱きつく。
『?!ちょ、何急に、』
『雛香チャンー』
『っ、なんだよ、てか離れろっ、』
『大好きだよ』
『はっ……は?!なん、なんなんだよ急に!』
『わあ顔真っ赤ー』
『しね!』
脳天めがけて振るわれる拳を、片手で受け止めくすくす笑う。
もう片方の手は当然彼の頭を抱えたままだ。離すだなんてもったいなくてできやしない。
『ねえ、雛香チャン』
『っ……何』
『大好きだから、ね』
ねえだから、
ずっと、僕の側にいて?
***
《白蘭さん!!》
突如わんわんと響き渡る声に、白蘭はマシュマロを頬張る手を止めた。
「ん、正チャン」
《ん、じゃないよ!!無事だったんですね?!》
画面越し、叫ぶ入江の顔はひどく焦っている。今にもメガネが割れそうな勢いだ。
「うん、元気」
《あの伝達係はどこに?!》
「ああレオ君?明日の新聞に乗るんじゃないかな、変死事件か何かで」
《え……》
ぴたり、入江が動きを止めた。
《じゃあ……》
「そーそー、彼の中身ね、六道骸君だったよ」
さらりと告げれば、入江の顔色がサッと変わった。
ああ面白いなあ、と白蘭は思う。これだから、彼が何をしていてもついつい泳がせてしまうのだ。
この驚愕の顔が見たいばっかりに。
雛香チャンがいたら、呆れ返っただろうなあ。
そんな無意味な考えが、ふと浮かんだ。
《六道骸、って……ボンゴレの霧の守護者ですか……?!》
「うん」
《じゃあ白蘭サン……六道骸を葬ったと?》
「まぁね」
《まぁね、って……》
「それより正チャン、」
未だ状況の飲み込めていないらしい入江に、白蘭はニッコリ笑いかける。
「面白いことになってきたよ」
《おもしろい……?》
「うん。骸君からは直接聞き出せなかったけど、近々ボンゴレは残った力で何か大きなことを企んでそうだ」
《!》
画面に映る、入江の目が見開かれる。
「恐らく全世界規模の攻撃作戦……もちろん、日本も含まれるよ」
《攻撃作戦、ですか?……まさか、過去から来た彼らもこの基地に攻撃してくると?!》
「そーいうこと」
ウンウン、と頷き白蘭は頬杖をつく。
そのまま入江の顔つきが変わるのを、ただ興味深く眺めていた。
***
『僕が直接やりますよ……彼らの迎撃とボンゴレリングの奪取は』
そう告げ、通信をぶっちぎった入江の顔を思い浮かべる。
クスリ、密かに笑みを漏らして、白蘭はゆっくり椅子から腰を上げた。
「……やっと、始まるね」
骸だけでなく入江をも泳がし、10年前から来たボンゴレとの戦いに持ち込ませ。
ずっと、この時を待っていた。
『……白蘭、こんなトコで寝てたら風邪ひくぞ』
『えー、じゃあ雛香チャンがあっためて』
『なっ、い、いきなり抱きついてくんな!』
『じゃあ事前報告すればおっけー?』
『くっそ……ほんと、ウザい』
赤らめた目元と真っ赤な耳に、可愛いなあ、なんて思いながらその黒髪を指で梳き。
「……ねえ、雛香チャン」
次は、僕の側にいてくれるでしょ?
今でも思い出せるのだ。
彼がいた、あのやさしい日々が。