君を咬み殺す3 | ナノ




いつまでも思い出す
 今でも思い出せる。


『こんなところにいたのか、白蘭』
『あ、見つかっちゃったー』
『ワザとらしい。しかもまたマシュマロ』

 小脇に抱えた大袋に、彼は呆れた目つきをする。

『美味しいよ。雛香チャンも食べる?』
『い、り、ま、せ、ん。つか仕事しろミルフィオーレボス。なんっで俺があんたの分まで手ぇ付けなきゃなんないの』
『さすが優秀な僕の腹心』
『しねマシュマロ星人』
『わあぶっそう』

 毒とともに飛んできた蹴りを、間一髪で回避する。

『チッ。ったく、その素早さを仕事に生かせっての。俺はもう行くからな』
『えー、待ってよ雛香チャン』
『やだね。俺はあんたと違って暇じゃねーの』
『もう』

 苛々とそっぽを向く、その可愛いようで可愛いくないそっけない横顔に、ぎゅっと抱きつく。

『?!ちょ、何急に、』
『雛香チャンー』
『っ、なんだよ、てか離れろっ、』
『大好きだよ』
『はっ……は?!なん、なんなんだよ急に!』
『わあ顔真っ赤ー』
『しね!』

 脳天めがけて振るわれる拳を、片手で受け止めくすくす笑う。
 もう片方の手は当然彼の頭を抱えたままだ。離すだなんてもったいなくてできやしない。

『ねえ、雛香チャン』
『っ……何』
『大好きだから、ね』

 ねえだから、


 ずっと、僕の側にいて?


***




《白蘭さん!!》
 
 突如わんわんと響き渡る声に、白蘭はマシュマロを頬張る手を止めた。

「ん、正チャン」
《ん、じゃないよ!!無事だったんですね?!》

 画面越し、叫ぶ入江の顔はひどく焦っている。今にもメガネが割れそうな勢いだ。

「うん、元気」
《あの伝達係はどこに?!》
「ああレオ君?明日の新聞に乗るんじゃないかな、変死事件か何かで」
《え……》

 ぴたり、入江が動きを止めた。

《じゃあ……》
「そーそー、彼の中身ね、六道骸君だったよ」

 さらりと告げれば、入江の顔色がサッと変わった。
 ああ面白いなあ、と白蘭は思う。これだから、彼が何をしていてもついつい泳がせてしまうのだ。
 この驚愕の顔が見たいばっかりに。

 雛香チャンがいたら、呆れ返っただろうなあ。
 そんな無意味な考えが、ふと浮かんだ。

《六道骸、って……ボンゴレの霧の守護者ですか……?!》
「うん」
《じゃあ白蘭サン……六道骸を葬ったと?》
「まぁね」
《まぁね、って……》
「それより正チャン、」

 未だ状況の飲み込めていないらしい入江に、白蘭はニッコリ笑いかける。

「面白いことになってきたよ」
《おもしろい……?》
「うん。骸君からは直接聞き出せなかったけど、近々ボンゴレは残った力で何か大きなことを企んでそうだ」
《!》

 画面に映る、入江の目が見開かれる。

「恐らく全世界規模の攻撃作戦……もちろん、日本も含まれるよ」
《攻撃作戦、ですか?……まさか、過去から来た彼らもこの基地に攻撃してくると?!》
「そーいうこと」

 ウンウン、と頷き白蘭は頬杖をつく。
 そのまま入江の顔つきが変わるのを、ただ興味深く眺めていた。


***




『僕が直接やりますよ……彼らの迎撃とボンゴレリングの奪取は』

 そう告げ、通信をぶっちぎった入江の顔を思い浮かべる。
 クスリ、密かに笑みを漏らして、白蘭はゆっくり椅子から腰を上げた。

「……やっと、始まるね」

 骸だけでなく入江をも泳がし、10年前から来たボンゴレとの戦いに持ち込ませ。

 ずっと、この時を待っていた。


『……白蘭、こんなトコで寝てたら風邪ひくぞ』
『えー、じゃあ雛香チャンがあっためて』
『なっ、い、いきなり抱きついてくんな!』
『じゃあ事前報告すればおっけー?』
『くっそ……ほんと、ウザい』
 赤らめた目元と真っ赤な耳に、可愛いなあ、なんて思いながらその黒髪を指で梳き。


「……ねえ、雛香チャン」
 次は、僕の側にいてくれるでしょ?



 今でも思い出せるのだ。
 彼がいた、あのやさしい日々が。





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