君を咬み殺す3 | ナノ




開匣まではあと少し
「しっかし意外」
「何が」

 迫る炎、右へ飛ぶ雛香。
 途端、爆発音が響く。
 避けた雛香のすぐ真横、粉々に砕け散る壁の破片。

「……あーあ、また派手に壊して……」
「君が避けるからでしょ?」
「避けるに決まって、って、おっと!」

 鼻先を掠めたトンファーに、慌てて雛香はのけぞった。
 だが容赦なく入る、次の一撃。

「ちっ」
「ワオ」

 銃を乱発する。
 防弾済みのこの部屋は、跳弾の心配もない。
 それに、どうせ目の前の男は、跳弾した弾すら易々と避けるのだ。いやさすがに試したことはないから、実際どうなのかは知らないが。

「で、何が意外?」
「っ、おまっ、このやろッ」

 蹴りが来た。嘘だろこいつ。
 とっさに回避、
 しかし次に雛香を待っていたのは、鈍色の強烈な打撃だった。


***




「……げほげほ、かはっ……」
「相変わらず隙が多い。精製度A以上が泣いてるよ」
「けほっ、うっさいな……お前がめちゃくちゃすぎるんだよ」
「リングのランクだけでいったら君の方が遥かに勝ってるのにね」
「あのなあ、」
「何」

 平然と見下ろす雲雀に、雛香は口元を引き攣らせる。

「俺には開匣させずに自分だけ匣兵器使いまくっといて、リングのランクも何もねえだろうが!」
「で、何が意外なの」
「聞けよ!」

 面倒になると途端に話題を変えるのだ、この男は。
 自分本位をそのまま形にしたような相手に、雛香はため息をつき立ち上がる。
 一撃をもろに受けた腹がずきずき痛んだ。本当に容赦がない。

「……ツナがさ、作戦決行するとは思わなくて」
「彼なら決行するさ、ってあれほど断言してたのは誰だい?」
「それはそーだけど……状況が状況だしさ」

 消息の途絶えた骸、意識の戻らないクローム、戦える身体ではないラルに、好調とは言い難い自分たちの修業進行。

「何、怖じ気付いてるの?」
「はあ?」

 挑発するように笑う黒い目。
 立ち上がってもなお、ずいぶんと高い位置にある瞳だ。むかつく。

「何言ってんだ?」

 鼻で笑い飛ばし、雛香は銃を構える。

「……いいね。その目だよ、宮野雛香」
「何が」
「僕を最高にワクワクさせる、闘る気に満ちた目だ」
「あっそう」

 異様に目を輝かせる、戦闘狂に肩をすくめ。


「……次こそ、お前の隙突いて開匣してやる」
「できるものなら」


 雛香は、勢いよく地面を蹴った。





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