開匣まではあと少し
「しっかし意外」
「何が」
迫る炎、右へ飛ぶ雛香。
途端、爆発音が響く。
避けた雛香のすぐ真横、粉々に砕け散る壁の破片。
「……あーあ、また派手に壊して……」
「君が避けるからでしょ?」
「避けるに決まって、って、おっと!」
鼻先を掠めたトンファーに、慌てて雛香はのけぞった。
だが容赦なく入る、次の一撃。
「ちっ」
「ワオ」
銃を乱発する。
防弾済みのこの部屋は、跳弾の心配もない。
それに、どうせ目の前の男は、跳弾した弾すら易々と避けるのだ。いやさすがに試したことはないから、実際どうなのかは知らないが。
「で、何が意外?」
「っ、おまっ、このやろッ」
蹴りが来た。嘘だろこいつ。
とっさに回避、
しかし次に雛香を待っていたのは、鈍色の強烈な打撃だった。
***
「……げほげほ、かはっ……」
「相変わらず隙が多い。精製度A以上が泣いてるよ」
「けほっ、うっさいな……お前がめちゃくちゃすぎるんだよ」
「リングのランクだけでいったら君の方が遥かに勝ってるのにね」
「あのなあ、」
「何」
平然と見下ろす雲雀に、雛香は口元を引き攣らせる。
「俺には開匣させずに自分だけ匣兵器使いまくっといて、リングのランクも何もねえだろうが!」
「で、何が意外なの」
「聞けよ!」
面倒になると途端に話題を変えるのだ、この男は。
自分本位をそのまま形にしたような相手に、雛香はため息をつき立ち上がる。
一撃をもろに受けた腹がずきずき痛んだ。本当に容赦がない。
「……ツナがさ、作戦決行するとは思わなくて」
「彼なら決行するさ、ってあれほど断言してたのは誰だい?」
「それはそーだけど……状況が状況だしさ」
消息の途絶えた骸、意識の戻らないクローム、戦える身体ではないラルに、好調とは言い難い自分たちの修業進行。
「何、怖じ気付いてるの?」
「はあ?」
挑発するように笑う黒い目。
立ち上がってもなお、ずいぶんと高い位置にある瞳だ。むかつく。
「何言ってんだ?」
鼻で笑い飛ばし、雛香は銃を構える。
「……いいね。その目だよ、宮野雛香」
「何が」
「僕を最高にワクワクさせる、闘る気に満ちた目だ」
「あっそう」
異様に目を輝かせる、戦闘狂に肩をすくめ。
「……次こそ、お前の隙突いて開匣してやる」
「できるものなら」
雛香は、勢いよく地面を蹴った。