君を咬み殺す3 | ナノ




垣間見えるは、近く遠い日の
『……本当に、殺すのか?』
『そーだよ雛香チャン、骸君はボンゴレのスパイなんだから』
『……知らなかったな』
『僕は知ってたけどね』
『相変わらず悪趣味だ、泳がせておくなんて……』

 呟き、こちらへ歩み寄る影。
 腕を組みニコニコと笑う白蘭を背後に、近づく人影はやけに小さく見えた。
 ゆらり、白昼夢のように白くぼやけるその姿を見、骸は大きく目を見開く。

「君は……!」

『……知りたくなかったな……お前が敵だったなんて』
『雛香チャン、どうしたの?』
『いや……なんでもない』

 どういうことだ。
 息を呑む。目の前の光景が信じ難い。
 ゆらり、眼前で悲しげに瞳孔を揺らすのは、

 ひどく見覚えのある、あの少年の姿で。

「……なぜ、君が……」
『……六道、骸。悪いと思うな』
 歪む、黒い眼差し。
 それは微かながら、苦しみを孕んでいた。

 こちらの声が届いていない。それもそのはすだ。『コレ』は実体ではない。

 ただの記憶、だ。

 とっさに察したが、しかし疑惑と混乱にあがる声を止めることはできなかった。

「君は一体、」
『……敵なら、あんなふうに優しくしてくれなければ良かったのに』
「っ、なぜ、」
『……さよなら、』
「どうして、」

 振り上げられた刃の向こう、影の落ちた顔は、確かに見覚えのある少年のものだった。
 忘れるはずのない、その黒の瞳は、


「……宮野雛香……!!」


***




「……あれ、マーレリングが反応しちゃったのかな?」
 刻まれた記憶を、数瞬ながら勝手に蘇らせてしまったらしい。
 呟いた白蘭は、にっこり笑うとヒラヒラと手を振る。

「……まあいっかー。どうせ見た本人は、もう存在しないんだし」

 まるで何事も無かったかのように呟くと、彼はくるりと背を向け歩き出した。


「……これで、1人は消せたかなあ。邪魔者」



 歩み去る白蘭の背後、動く物は何ひとつ無い。





- ナノ -