君を咬み殺す3 | ナノ




襲い来る決別
 廊下を雲雀と歩いていると、バタバタと慌てた足音が聞こえた。
「……煩いね」
「誰だろう……ってツナ?リボーン?」
「雛香君!!と、雲雀さん!」
 驚き立ち止まる雛香の前、珍しく険しい顔でリボーンが小さな口を開く。

「雛香、雲雀大変だ。クロームの容態が急変した」
「え?」

 雛香は目を見開いた。


***




「なんて恐ろしい能力でしょう……」

 漂う白煙。パラリ、落ちる壁の破片。
 響くは、荒い呼吸音。

「さすが、ミルフィオーレの総大将……と言うべきですね。敵いませんよ」
 レオナルドの体から実体化した骸は、その左目から大量の血を流し、ただ跪く。
「また心にもないこと言っちゃって、喰えないなあ。骸君」
 対する白蘭は、大した傷もなく笑顔を浮かべ。
「君のこの戦いでの最優先の目的は、勝つことじゃない。僕の戦闘データを外部の他の体に持ち帰れればそれでよしってとこだろ?」
「……ほう」
 左目を強く押さえたまま、しかし骸は不敵に薄ら笑いを浮かべた。
「……だとしたら?」
 楽しげに笑う、白蘭。

「叶わないよ、ソレ」

 煙はゆっくりと薄れていく。
 静まり返る部屋は、戦闘の残痕に侵されていた。

「この部屋には特殊な結界が張り巡らされてて、光や電気なんかの波はおろか、思念のたぐいも通さないって言ったら……信じてくれる?」
「クフフフ、何を言っているやら……」

 ぐらつく体に笑みを歪め、骸は静かに左目の能力を発動させる。
 そろそろこの体も限界が近い。

「楽しかったですよ」
 そう告げ、消えるはずだった己の魂は――

「?!!」
「だからダメだって、骸君。この部屋は全てが遮断されてるって言ってんじゃん」
「な……」

 そんな馬鹿な。
 しかし、実際何かに弾かれるような感覚に襲われ、実体化を解くことができない。

 こんなことが。

 くっ、と顔を歪めた骸に、白蘭は笑みをたたえた口端を、うっすらと引き上げた。

「……ほんと、君には『毎回』楽しませてもらうよ。どうしてか、何をしても君はいつも僕の組織に入り込んできちゃうんだよね…….実体のない、まやかしみたいに」
「……?」

 突如つらつらと話し始めた白蘭に、骸は眉をひそめ、その姿を見上げる。

 何を言っているのだろうか。
 疑惑に満ちる骸の内心は、しかし、次の言葉に凍りつく。


「しかも、君は雛香チャンが大好きと来た。本当に、とんでもない人材だよねえ」


 ……雛香?

 ここで聞くとは思ってもみなかった言葉に、骸は完全に硬直した。
 信じられない思いで相手を仰ぐが、白蘭は顎に手を当て、んーと呟き目をあらぬ方へと向ける。

「まあ、最後はその雛香チャンに手を下してもらったんだし、悪くない思い出だったよね?」

 何を、
 何を言っているのか。
 混乱を通り越し、まるで他人事のように呆然と聞き流す骸の前、

 カツンと1歩踏み出す、白いブーツ。


「そりゃあ覚えてないよね。『この』世界の君の話じゃないもの」


 冷たく目を光らせ、しかし口元には優しさすら感じる笑みをたたえ、白蘭は骸を見下ろした。
 その中指で、キラリと輝くマーレリング。

「……バイバイ、」
「!」

 目を開いた骸の前、突如白蘭の姿がぶれ――。





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