事態は急速に
「……ちっ。バレてたのか」
くぐもった声が聞こえると同時、音もなく滑るようにふすまが開かれる。
「どうしたんだい」
「草壁から聞いただろ……5日後に、ミルフィオーレに殴り込みだ」
「沢田綱吉が決断しない限り、その作戦は決行されないよ」
「ツナなら決行するさ」
きっぱりと断言する雛香に、雲雀は眉をつり上げたが何も言わなかった。
気配に気付かなかった草壁は、するりと入り込む雛香に驚きの目を向ける。
「……それで?」
「5日……時間が無い。俺と手合わせをしてくれ」
「ふうん。それだけじゃなさそうだね」
さすがだな。声には出さずに黒い瞳を見つめ返す。
雛香はポケットに手を入れ、肌身離さず持ち歩いていたそれを突き出した。
「……この匣を、開匣する許可が欲しい」
手の上、ころりと揺れる橙色の匣を、雲雀は無言でただ見つめた。
***
一方。
遠く離れた、イタリアのビルの最上階、そこで。
「……お帰りなさいませ、白蘭様。お食事いかがでした?」
「うん、うまかったよ。ラーメンにギョーザ」
部下の問い掛けにニコリと答え、白蘭は首を傾ける。
「ところでレオ君、何してんの?とうとう世話係まで任せられちゃった?」
「い……いえ……」
問われたレオナルド・リッピは、言い辛そうに視線を下げる。
「じ……実は、一身上の都合でやめさせて頂きたく……」
「お」
唐突な申し出に、白蘭はぴくりと眉を上げる。
だが、その笑みは崩れない。
「それはびっくり。君の才能には期待してたのになー」
「ま……またそんな……」
困り顔で俯くレオナルドに、白蘭はいつも通り言葉を重ねる。
その笑みは崩れない。崩れることはない。
「ホントホント、なかなかできることじゃないよー。第11部隊を退け、グロ・キニシアを黒曜に向かわせるように誘導するなんてさ」
空白。
「……は?」
唖然とした顔になるレオナルドに、一方の相手はただ平然と言葉を並べる。
「君はあそこで、10年前のクローム髑髏を勝たせなければならなかった」
その口元を彩る笑みは、まだ崩れない。
「だから僕に虚偽の含まれる報告をして、勝ち目のない第11部隊ではなく第8部隊を向かわせるよう操作した。グロ君にだけクローム髑髏の魅力的な情報を教えることも怠らずにね」
ぽかんとしたまま、レオナルドは上司の流れるような発言を聞くしかない。
驚きに満ちた表情で、彼はなんとか口を開いた。
「白蘭様……?一体何を?」
対峙する男は、ただ笑みを深める。
愉快そうに、面白がるように。
「もういいから出ておいでよ、レオ君。いや……この場合グレド・グレコ君?それともボンゴレの霧の守護者かな」
「ボンゴレの……霧の守護者……ですか?」
「うん」
張り詰める空気。
動かない2人。
そして、白蘭は口を開く。
「――六道骸君」