君を咬み殺す3 | ナノ




ただいま、そして
「……な、」
 ぎゅうう、と無言で体を抱きしめる雲雀。
 痛いほど強い腕の力に、雛香は自分の心拍数が急上昇するのをはっきり感じた。ほぼ反射で抗議の声が口から転がり出る。

「ちょっ、痛いってのバカやろっ、」
「良かった」

 耳元で聞こえた低い声に、思わず、喉を出かけた言葉が止まる。

「君が無事で、本当に」
「……え、ひば、」
「良かった」

 強く体を抱きしめる腕が、微かに震えているのに気が付く。
 どうしていいのかわからず硬直する雛香の耳元で、低くかすれた声音が聞こえた。

「……悪かった」
「へ……何が」
「首、痛かっただろう」
「え、あ、ああ、まあ」
「嘘をついた」
「……ああ、うん」
「君に憎まれれば、君が僕に近づかなければ、もう失うことはないと思った」

 目を開く。
 こちらの首筋に顔をうずめる雲雀の、その表情は窺えない。

「……でも、わかったんだ」
「なに、が」
「僕には、もう耐えられない」
「……え、」
「例え憎まれたとしても離れたとしても、君に何かあったとしたら、僕は、」


 僕は、生きていけない。


 瞬きを、繰り返す。
 いつの間にか頬をつたっていたのは、皮膚を焼くように熱い、濡れた何かだった。

「……うん」

 だらりと体の横に垂れていた両腕を、黒い背中に回す。そのまま、雛香はぎゅっと雲雀を抱き返した。
 強く強く、痛いほどに。この腕の感触を、その背中に刻み付けるように。


 聞けていないことは山ほどある。
 なぜそんな無意味な嘘をついたのか、なぜあんなに苦しそうな目をしていたのか、
 そうだ、廊下で雛乃と抱き合っていた理由も、そう、何もかも聞けていない。

 でも、

 でも、もうどうでもいいかな、と思った。


 こうして体を暖かく包むこの両腕が、強く抱きしめるその手の力が、
 耳元で微かに聞こえる雲雀の吐息が、

 なんだか、今まで胸元を塞いでいた全てを溶かしてくれた、
 そんな気がして。


「……ひばり、」


 ねえ、雲雀。
 もうこの想いは、伝わっているかな。


「……俺、」
 お前のことが、と続ける前に、


 雲雀の唇が、雛香の口を柔らかく塞いだ。





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