ver.V.R.
一瞬、唇を塞いだ柔らかな感触は、
軽く重ねられただけで、すぐにするりと離れていった。
「……ひば、」
「少しだけ待ってもらえるかな、雛香」
「へ」
「赤ん坊との約束なんだ。……体は大丈夫かい?」
「え、あ、うん」
こつん、と額を重ねられる。ついでに軽く唇を撫でられた。そのまま肩や腕にも控えめに雲雀の手が降りる。
例えるなら動物の毛づくろいのような、そんないつになく優しい雲雀の手付きと言葉に雛香は思わず目を逸らした。自然と顔が発火していくのを感じる。やばい、なんだこれ。
あわあわと視線をあらぬ方向にやる雛香にふと気付き、雲雀は口元を緩めた。
「……ちゃんと待ってなよ」
「え、あ、ハイ」
「なんで敬語」
くすり、笑うと雲雀はおもむろに立ち上がる。
そのまま黒い背中が遠ざかっていくのを、雛香は呆然とした思いで見送った。
『……ちゃんと待ってなよ』
小さく笑んだ口元が鮮明に浮かぶ。
「……な、」
口元を手で押さえる。
顔が赤くなっているであろうことは自分でもわかった。
「……なんのつもりだよ、あいつ……」
***
「少しだけ僕の知ってる君に似てきたかな」
雛香のもとから離れ、ツナへと歩み寄る雲雀が不敵に言い放つ。
「赤ん坊や雛香と同じ……僕をワクワクさせる、君にね」
ツナは何も言わずに雲雀を見据える。
その両手にあるは、ボンゴレ1世により引き継いだ証、燃え上がるXグローブver.V.R.。
「ここから先は好きにしていいという約束だったからね。じゃあ、」
ドシュッ、と開け放たれる匣。
「……始めようか」
炎を宿したトンファーを携え、雲雀はツナへ向けうっすら笑った。